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「さて、そろそろセミナーを開始いたしましょう。みなさまが有意義な時間を過ごせますように。」

霊能者が、会場内のひとりひとりに語りかけるようにゆっくりと言った。
その顔には・・・笑み。
その笑顔の裏を、必ず暴いてやるからな・・・

「・・・酒井。安岡くん。」
「なんだ?」
「はい。何ですか?」
「あの人の言うこと、鵜呑みにしちゃダメですよ。
ディベートの反対意見側に立つようなカンジで、どこかに矛盾点がないか探るようなカンジで一言一句しっかり聞いてくださいね。」
「ああ・・・わかった。」
「はい、わかりました・・・」

俺の小声での忠告に、酒井と安岡が表情を引き締めた。

「では早速、今日ここにお集まりのみなさんの悩みを、わたくしが持つチカラで探っていきましょう・・・。
悩みを知ることで、解決方法も見えてきます。」

霊能者のコトバに、会場の緊張の糸がピンと張り詰める。

「・・・では、まず、そこのあなた。」

指されたのは、一番前の列の真ん中の席の中年男。
いきなり当てられた戸惑いがその背中に現れている。
最後方から見てもその様子がはっきりわかった。

「・・・見えます・・・見えますよ・・・」

霊能者は目を細めて、指先を男の方に伸ばしシルエットをたどるように動かしている。

「・・・あなたは・・・子どもの頃から人間関係に悩まされてますね・・・?」
「はいっ!そ、そうです!」

見事に言い当てられた男は、すっかり興奮して椅子から立ち上がっている。

次は隣に座る若い男だ。

「・・・この不景気で大変な思いをされたんですね・・・」
「わ、わかるんですか・・・?!」
「すべて、見えてますよ・・・?」
「・・・うわぁっ・・・!」

若い男は、自分の内に溜め込んだ悩みを理解してもらえたことで苦しみから解放されたらしい。
声を上げて泣き始めしまった。

次々と言い当てていく霊能者。
会場は軽いパニックに陥っている。

で、ついに俺たちの番が回ってきた。

「では、そちらのあなた。」

酒井を手のひらで指した。

「俺、っすか・・・?」
「そうです、あなたです。あなたは・・・う〜ん、・・・恋愛関係で悩んでいらっしゃいますね?」
「あっ・・・あぁ、まぁ、そんなところだ・・・」

酒井も、他の参加者同様ズバリ言い当てられ、呆気にとられている。

「次は、隣のあなた・・・」
「うわっ、は、はいっ・・・」

次は安岡の番だ。

「あなたは・・・人を・・・探しているようですね・・・」
「・・・え、・・・」

絶句し、助けを求めるように霊能者と俺の顔を交互に見ている。

「その次の、・・・あなた。」

俺だ。

「・・・はい。」
「あなたは・・・今、金銭面で苦しんでいる・・・。違いますか?」

当たってる・・・!

俺の横で兄さんが「え!お前、金に困ってんのぉ〜?!」と俺に尋ねてきた。
ヤバい!

「・・・いや、そんなことは、あ、ありません・・・」

兄さんに貧乏がバレないように、口から出まかせでウソをついてしまった。

「ほほぅ・・・そうですか?あなたは、相当疑り深い性格のようですね・・・」

俺を見てニヤリと笑う霊能者。
相当な自信じゃないか・・・。

それに、どうしてこんなに当たってるんだよ・・・
もしかして・・・そういう不思議なチカラが実際に存在するのだろうか?

『この世に超常現象は存在しない。超常現象と呼ばれるものには、すべてタネと仕掛けがある』
・・・コイツによって父さんの持論が覆されてしまうのだろうか。

「最後に、・・・あなた。」
「やった!俺だ!はい!はい!俺、何ですか?!」

兄さんはワクワクした様子で挙手している。

「あなたは〜・・・・・・・・・悩みがないのではありませんか?」
「・・・・・・・・・えぇ〜!俺だけそんな内容なの?!つまんないなぁ!」

兄さんは不服そうに声を上げる。

「・・・え、兄さん・・・ホントに悩みないの?」
「う〜ん、あるようなないようなカンジだからねぇ、俺の悩みが何か教えてもらいたかったの。」

・・・『自分の悩みがわからない』ってことは、『悩みがない』っていうのとイコール、だよな・・・?
これも、当たってる、ということになるのだろうか・・・?


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