高速道路へと入ると、走行距離と比例するように車窓に緑が増えていく。
俺の隣では、兄さんが爆睡中。
助手席の安岡は、緊張のせいか
だんだん口数が減ってきた。
俺と酒井も、知り合ってまだあまり時間が経っていないこともあり、話すことも特にない。
静まり返った車は、田舎出身の俺には耳馴染みのない地名の出口で高速を下りた。
高速を出てすぐに山道へと入り、畑の真ん中にある一本道をぐねぐねぐねぐね上がっていく。
そのうち畑もなくなり、森を切り拓いて作ったような細い道をさらに進む。
「たぶんもうすぐだと思うんだが。」
酒井の声をキッカケに俺と安岡は伏せていた顔を上げた。
深い森を抜けたのだろうか、突如開けた視界に広大な高原と青い空が広がった。
「おぉ、すごぉ〜・・・」
「絶景だ〜・・・」
「お、安岡、あの塔じゃないか?」
酒井が片手で運転を続けながら、高原の真ん中に見える金色(こんじき)の塔を指差す。
「・・・あ、そうです。あの塔が教団の中枢施設で、象徴的な存在になっているようです。」
「なんと悪趣味な・・・」
塔の周辺には、小ぶりの建物が十数棟、小さな集落を築くように固まって建っている。
それらの屋根には、丸い地球に天使の羽が生えたようなカタチのキンピカの像が飾られている。
「ホント悪趣味だよ・・・」
依然居眠り中の兄さんを除いた俺たち3人は、見学ツアー的なノリでそれらの建物をまじまじと観察した。
「クルマ、どこに置くの?いざという時の逃走手段としてどこか近くに隠しておいた方がいいんじゃないの?」
「あ、おぉ、それもそうだな。」
「あ、あそこなんてどうです?」
安岡が指す前方に、車1台ほどの大きさの路肩があった。
その奥には、けもの道のような細い道も見える。
「じゃあ、そこに止めよう。」
酒井はブレーキをゆっくりと踏み込み、路肩に横づけするように停止した。
「あ、先に降りててくれるか?そこに停めてしまったらドアが開け閉めできなくかるからな。」
「わかった。・・・兄さん、着いたよ。」
「んあ〜?・・・ほわ・・・眠ぅ・・・」
兄さんを叩き起こし、運転席の酒井を残して3人で先にクルマを降り、酒井が駐車するのを待つ。
何度も何度もハンドルを切り直してその狭いスペースに駐車し終えた酒井は、運転席側にわずかにできた隙間を活かして細くドアを開ける。
無理な体勢になりながら、「どっこいしょ」というコトバとともに車外へ出てきた。
「さて・・・行きますか、みなさん・・・。」
ついに教団内に潜入する。
この先、一体何が起こるというのだろう。
不安と緊張で急に口数が減り、表情も強張る。
酒井も安岡も同様だ。
唯一事情を知らない兄さんだけが、浮かれ気分マル出しで俺たち3人の後についてきたのだった。