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俺と酒井は、兄さんを部屋に残し、酒井のクルマに乗り込んだ。

「忘れ物はないな?」
「ええ、特には。たいしたもの持ってませんでしたし。」
「ならば行くとするか。」

ブロロロロンと古きよき時代のエンジン音を響かせながら、車は発進した。

出発して約20分少々で安岡との待ち合わせ場所へと到着。
しかし、そこに安岡の姿はない。

「ん?おかしいな。さっきもう駅に着いたってメールあったのにな。」
「コンビニかどこかに立ち寄ってるんじゃないかな。もう少し待ってたら来るんじゃない?」

車内で待つこと約5分。

「・・・あ、いた、やすお・・・えぇえぇぇぇ〜っ!!」
現れた安岡の横にとんでもないモノを発見してしまった。

安岡の横にいるのは・・・兄さん?!
あれは間違いなく兄さんだ・・・!!

俺の動揺をよそに、安岡と兄さんは楽しげに話しながら車へと向かって歩いてくる。

「あれま、お兄さんが何でここにいる?」
「ちょっ、家で留守番してるはずじゃ・・・!」

レバーを回して手動で窓を開けた俺たちに向かって、安岡が「おはようございま〜す」とアタマを下げる。
その横で、兄さんが「おお、陽一〜っ!」などと言いながらうれしそうに手を振っている。

「何やってんの、兄さんはっ!」

兄さんにつっかかっている俺の言葉を聞いた安岡が、「あれ?北山さんのお兄さまだったんですか?」と目を見開いている。

「ん〜?研究ってさ、どんなことするのかな〜、なんかおもしろそうだな〜って気になっちゃって。ついてきた。」
「はぁあ?!『ついてきた』って・・・」
「え?研究?研究って何ですか?」

安岡はイマイチ事情が掴めてない様子・・・って、いやいや、俺だってまだ掴めてない!

「んで、俺が駅で迷ってたところを彼が案内してくれたんだよ〜。いやぁ、まさか陽一の知り合いだったとはね〜、すごい偶然だね〜!」
「兄さん、あのねぇ、これ遊びじゃないんだから、ね?」
「わかってるよぉ〜。おとなしくしとくからさ、ね!連れてってくれよぉ〜!
せっかく弟に会いに東京まで来たのに、離れ離れとかおかしいだろ〜?」
「いや、おかしいのは兄さんだから!俺の予定も聞かずに急に東京へ来たくせに!それに、何で集合場所知ってんの?!」

「まぁまぁ、いいじゃないか、連れていってあげれば。」
「なっ・・・?!」

兄弟ゲンカに口を挟んできた酒井のコトバに、俺は思わず絶句してしまった。

「うわぁ〜、酒井くんありがと〜!」
「いえいえ、とんでもございませ〜ん。」
「・・・いやいやいや!ふたりとも何言ってんの?!あり得ない!兄さんまでそんな危ない目に・・・」
「え、危ないの・・・?そんな危ない研究してるの?」
「い、いや、あのっ・・・」

マズい!バレたら行くなと引き止められそうだ。
行かないと200万円がパーになる・・・!

「そんな危ない研究してると知ったら、ますますほっとけないじゃないか!大切な弟だぞ?!俺が守らないで誰が守る?!」

あ、そっちね・・・
行かさないように引き止めるんじゃなくて、一緒に行きたいってことね・・・完璧に興味本位だよ・・・。

・・・仕方ない、200万のためだ。

「・・・じゃあ、好きにすれば・・・?」
「うん、わかった、ついてくよ〜。・・・なんか昨日からヤな予感もしてたし。
「え?兄さん、今何か言った?」
「ん〜ん、別に。」

ということで、楽しげな笑顔を浮かべる兄さんと一緒に車の後部座席に乗り込み、安岡が助手席に座って酒井のナビを担当することになった。


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