「・・・さて。北山の方は村上にまかせるとして、俺たちは普通に応援でもするか。同じ学校の生徒として。」
酒井の案に俺と黒沢は頷き、ライトスタンドの一番上の席に移動し、グラウンドで繰り広げられる熱闘をボ〜ッと眺めていた。
スポーツ観戦は昔から好きだけど、観戦に身が入らない。
試合内容より、吹奏楽部の演奏ばかりが耳につく。
やっぱり吹奏楽部の演奏はすごい。
見事な演奏で二の腕辺りに鳥肌が立つ。
俺もあんな風に演奏できたら、気持ちいいだろうな・・・
今日1日のことを振り返りながらボ〜ッと試合を眺めていると、我が校の先発ピッチャーが突如乱れ、相手校のバッターにボコスカ打たれ始めた。
揺るぎないと思われていた大量リードも、気がつけば一点差というところまで詰め寄られていた。
「これは〜・・・まずいな・・・」
ピッチャー交代。
2番手のピッチャーが登板したが、これもストライクが入らず、フォアボールでランナー1塁。
一発出れば逆転のピンチ。
「ヒジョ〜にまずいよねぇ〜・・・」
カキーン!
「あ。」
相手校のバッターが真芯でとらえたボールは空高く舞い上がり・・・
スポッと俺の手のひらに収まった。
ツーランホームラン・・・
この一発で逆転され、今度は我が校が1点を追う展開に。
なんとか繋ぎの野球で追いつき追い越したいのだが、せっかくのチャンスもなかなか生かせない。
「オノレら気合い入れていかんかいっ!何やっとんじゃワレ〜っ!」
酒井が酔っ払った阪神ファンのオッサンのようにゲキを飛ばすも、形勢は変わらず。
ついに9回ウラ。最後の攻撃。
なんとか満塁までこぎつけたが、すでにツーアウト、ツーストライク・ノーボール。
もうあとはない。
「あ〜、もうダメだねこりゃ・・・」
俺が呟いた横で、スクッと黒沢が立ち上がり、いきなり取り憑かれたように大声で歌って踊り出した。
「♪ヒットエンドラーン!ヒットエンドラーン!チャンスに振らずに棒に振る〜!」
ズパーン!
『ストライ〜ク、バッターアウト!ゲームセット!』
まさかの見逃し三振で試合は幕を閉じた・・・
「ちょっ、黒沢がヘンな歌 歌うからっ!」
「だって!振らなきゃ勝てないじゃん!『虎穴に入らずんば虎児を得ず』って言うじゃん!」
「あんたには『フォアボール』という概念はないのか?!」