渋滞に巻き込まれることもなく、バスは第3試合がもうすぐ終わるというタイミングで公営のグラウンドに到着した。
1塁側スタンド、ベンチの上辺りに俺たちは陣取った。
「あれ?村上、何やってんだよ?それに・・・黒沢も??」
グラウンドにいた野球部員が吹奏楽部の見慣れぬ様子に気づいたらしく、観客席を見上げて尋ねてきた。
どうやら村上と黒沢のクラスメイトのようだ。
「おぅ、ちょっといろいろあってな。今日は俺らが応援してやっからお前らも頑張れ。」
「ちょ、お前らが応援すんのか?!あ・・・アタマ痛くなってきた・・・」
「頑張ってねぇ〜っ!!」
黒沢の高く大きな声が野球場いっぱいに響き渡ったタイミングで、偶然試合開始のサイレンが鳴り始めた。
黒沢の声込みで“サイレン”ってカンジだ・・・。
1回ウラの攻撃。
「じゃ、やろうか。」
「おぅ、まかせとけぃ。」
北山の合図で酒井がドラムを叩き始める。
「ど、ドラム・・・・?」
大人数ではなく、たった5人でお送りするミョ〜な応援に、少々ざわつく場内。
ちょっとヘロヘロした金管楽器の音色に失笑が起こる。
くぅ・・・すっごく恥ずかしい。つか、もうやめたい。
「くっそ、せっかく俺らが応援してやってるのにみんなバカにしやがってよぉ・・・!」
「村上、気にしないでいいから。やってるうちにうまくなるってば。」
こんなボロボロな応援だったけど、試合は我が高校が大量リードを奪い、試合はそのまま終盤へ。
「みんな随分うまくなってきてるよ。あともう3回で終わりだから、頑張ろう。」
「おっけ〜。」
「お?北山。何やってんの?」
後ろから声がして俺たちは振り返った。
神経質そうなメガネのヤツが大勢引き連れて仁王立ちしている。
「・・・部長・・・」
どうやらこの“神経質メガネ”が、北山が言ってた“あの”部長、のようだ。
「病院で点滴してもらってみんなすっかり元気になったから。・・・早くそこを退いてもらおうか。」
「そう、ですか・・・わかりました・・・」
北山は泣きそうな表情を浮かべて俺たちの元に戻ってきた。
「ごめん、みんな・・・もう俺たちの応援いらないみたい・・・ありがとうね、ここまで応援手伝ってくれて・・・」
「いや、そんなことはいいのだがな・・・」
酒井が困ったような顔で頭を掻いている。
「さ、片付けよう、か。」
「あ、うん・・・そう、だね・・・」
オモチャを取り上げられた子どもみたいな悲しげな表情で、俺たちは楽器を片付け始めた。
応援なんて・・・って、あんなに嫌がっていたのに。
みんないつの間にか楽器を演奏するおもしろさに魅了されてしまったようだ。
もちろん、俺もだ。
「では部長・・・あとはお願いします・・・」
「ご苦労さん。」
北山が部長に頭を下げ、部長の元を離れる。
「俺がいない間に部長気取り、か・・・?」
部長が去り際に言ったコトバに、村上が「んだとコラッ!」と言って殴りかかろうとしたが、北山が村上の手首を掴んで阻止した。
「離せよっ!コイツ何もわかってねぇっ!」
「いいよ・・・部長の言ってること、間違ってないから・・・」
北山はそう言い残して走り去ってしまった。
「くそっ・・・!」
村上は北山を追って走り出したけど、俺にはそんな気力も残っていなかった。
体力的にきつかったワケじゃない。
今日1日頑張ってきた、その努力が中途半端で終わった。その脱力感でカラダが動かなかったんだ。
それは俺だけじゃなく、黒沢も酒井も同じのようだ。