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やっと鳴らすコツを得たところで、北山が提案した。

「さすがにいろんな応援マーチを覚えるのは難しいから、1曲だけ演奏できるようにしよう。簡単なのをね。」

さっきグラウンドで吹奏楽部がやっていたバースのテーマ。
あの『細かすぎるモノマネ』のヤツだ。

音楽室の黒板の五線譜に北山がチョークで音符を書いていく。

「あの〜・・・」
「ん?黒沢どうしたの?」
「俺〜・・・楽譜読めないんだけど〜・・・」

みんな沈黙。
たぶん北山以外全員読めないんだと思う。
かく言う俺もそうだし。

「ダイジョウブ。」
北山は音符の下にカタカナでドレミを書いてくれた。

「とりあえず、これ見て音符の上がり下がりだけ覚えて。音階は手で覚えてくれればいいから。」

そう言って、北山は各メンバーにメロディに合わせて音階の変え方を教えていった。
余計な音階の鳴らし方は教わっていない。
つまりこの曲で使わない音階の鳴らし方はわからないままだ。

だけどそのおかげか(?)、音はヘロヘロだが、だんだんバースのテーマっぽく聞えてきた。

「うん。悪くないね。あと20回ほどやればカタチになりそうだね。」
「あと20回も・・・?」
「うん、あまり時間もないし、頑張ろう。」

最初はブーブー文句ばっかタレていた俺たち4人。
北山が褒め上手なせいもあるかもしれないが、ちょっと楽しくなってきた。
その証拠に、誰も文句言わず吹いている。

「うん、かなりよくなってきた。じゃ、吹奏楽部用に用意してたバスが来る時間だから、グラウンドに行こうか。」
「おぅ。いっちょやってやるか。」
「楽器各自持ってね。酒井のドラムは数が多いからみんなで分担で。」
「わかった!じゃあこれ持ってあげるよ!」
「いやはや、すまんな。」
「いいってことよ。」

酒井のドラムの一部を黒沢と村上が担ぎ上げるのを横目で見ながら、俺は北山に歩み寄った。

「で、北山は?何の楽器するの?」
「俺?」
「うん。」
「今日はキーボードで。」
「へぇ、キーボード?カッコイイじゃん。・・・え?『今日は』?どゆこと?」
「ホントは・・・いつもは大ダイコなんだ。」

そう言う北山の表情が一瞬にして曇る。

「大ダイコ?・・・な、なんで?こんなに音楽できるのに?」
「俺・・・実は部長に気に入られてなくてね。」
「え・・・どうして・・・?」
「俺がね、部長の方針に納得がいかなくて口出ししてたらさ、一方的に嫌われちゃったみたいで大ダイコ押しつけられちゃったんだ。
ホントは編曲とかもやりたかったんだけどね。」
「そっか・・・」
「今日もさ、炎天下の練習はやめた方がいいって言ったんだけど・・・ほら、何というか、熱血的なタイプの人だから、聞く耳持たずでさ。
『後輩のくせにエラそうだ。文句があるんなら帰れ。』って言われて、ハラ立って音楽室に帰ってたんだよ。
そしたらみんなあんなことになってしまって・・・。」
「だから吹奏楽部の中で北山だけが倒れてなかったのかぁ・・・。」
「やっぱりあの時ムリにでもみんなをとめてあげればよかったな、って・・・後悔してる・・・」
「いや、悪いのは北山じゃないよ!責任を背負い込む必要はないよ!」

「安岡の言うとおりだ。お前が悪いワケじゃねぇ。部長だって今頃お前の言ったこと、身をもって理解できたんじゃねぇか?」

俺と北山の会話をいつの間にか横で聞いていた村上が、北山にそんなことを言った。

「ホント、村上の言うとおりだよ。なんかさぁ、北山の話聞いて、俺もその部長を見返してやりたいって気持ちになってきたよ。」
「俺たちじゃあチカラ不足かもしれんが、できるところまではやってやる。それでいいか?」

実情を知った黒沢と酒井も、北山に声をかける。

「ありがとう・・・みんな・・・」

ブッブー!

バスが到着したことを知らせるために鳴らしたクラクションが響き渡る。

「バス来たね!よし、行こうよ!」
「お〜っ!」
なんて青春映画みたいにみんなで雄叫びなんか上げちゃって、楽器を抱えてバスに乗り込んでいった。

バスの運転手さんは人数の少なさにビックリしていたが、「部員が暑さで倒れて」と簡単な説明をすると理解してくれたらしい。

バスは砂ぼこりを立てながら、グラウンドを後にした。


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