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「じゃ最後に黒沢。」
「ん?」
「君はトロンボーン。」
「トロンボーン?」
「ああ、谷啓のか。」
「タニケイって何だ?」
酒井のミョ〜な相槌に、しなきゃいいのにイチイチ反応する村上。
正直、俺もよくわかっていないけど。

「酒井、どれも表現が昭和だね・・・。トロンボーンは右手でスライドを前後させて音を鳴らす楽器ね。」
「ああ、見たことあるよぉ〜。」
「トロンボーンもね、トランペットと同じ。こうやって・・・」

びー・・・

「あ、鳴った!」
「そうそう!そのカンジ!わかる?」

びー・・・

「うん、わかった!」

びー・・・びー・・・

「くっそ、俺だって!」
村上がいきなりそんなことを叫んで、マウスピースを吹き始めた。

すー・・・すー・・・

「・・・ま、負けねぇ!俺、ゼッタイ負けねぇ!」
「村上、さっきから黒沢をライバル視しすぎじゃないのぉ?」
「なんか・・・アイツに負けることを俺の遺伝子が認めねぇんだよ!」
「ようわからん理論だな。」
「遺伝子レベルのことをお前らに理解してもらおうなんざ思っちゃいねぇよ!」

そんなワケのわからないやりとりの後、各自練習し、20分ほどで全員マウスピースを鳴らせるようになった。
その間、北山が酒井にドラムを教えたりして、みんな少しずつカタチになって・・・いってはいないか。まだダメだよな・・・。

「じゃあさっきのマウスピースを楽器に装着して実際に吹いてみようか。」

ぷふぉ〜・・・

「あ、鳴った!」
「黒沢、ホントすごいね。一発で鳴るとは。なかなかいいセンスしてるよ。」
「えへへぇ〜。」

ひとりご満悦の黒沢の隣で、村上が顔真っ赤にして吹いてるけど、鳴らなくてスースカ言ってる!
やっべ、ウケる〜!

・・・って俺も全く鳴らないのだけど・・・!
マウスピースを鳴らすだけでも一苦労だったのに、楽器をつけた途端、穴を塞いだみたいに息が入っていかないんだ。

「はぁ・・・しんど・・・もうムリだぁ〜・・・」
「安岡、あと一息だってば。もう少しで鳴りそうだよ?」
「むぅ〜・・・」

すぅっ、と息を大きく吸い込み、サックスにもう一度息を吹き込む。

ぶほっ・・・

「お?」
「ほら、鳴ったじゃん。」

ぷぁっ・・・

「ほら、村上も鳴った。みんなすごいすごい。」


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