この腹筋の結果を踏まえて、北山は4人に楽器を振り分けた。
「じゃあまず酒井は、ドラムね。」
「どっ、ドラムだぁ?!」
北山の説明によると、腹筋の回数の少なさから判断して、吹く楽器からは外されたらしい。
「なんだ、この・・・俺ひとり、使い勝手悪いような扱い・・・」
「いや、そうじゃないよ。腹筋の時のリズムの取り方が4人の中で一番安定してた。そこを評価したんだよ。
いつもなら大ダイコ・小ダイコ・シンバルとかパート分けされているんだけど、この人数ではそうはいかない。
でも酒井のリズム感のよさがあれば、ひとりでドラム叩けるんじゃないかなって思って。」
「・・・根拠のないなぐさめご苦労・・・」
「いや、だからそういう意味じゃないってば・・・。はい、これ。試しに叩いてみて。」
北山は、落ち込む酒井にドラムスティックを手渡した。
「口でドラムやった方が早いような気がするなぁ。ドコツコ
ドコツコって。」
「いやいやいやいや・・・野球部応援するのにさすがにそれじゃおかしいでしょ・・・。
じゃ酒井、まずはこのタイコだけでいいから左右の手で交互に叩いてくれない?」
「・・・まぁ、じゃあやってみるけどもな・・・」
酒井はぎこちない動きでドラムセットに座り、北山の指示した1つのタイコを叩き出した。
ドココココココココ・・・
「・・・こうか?」
「もう少し早く。」
「・・・これでどうだ?」
「うん、OK。酒井は器用そうだから、左右別の動きもできるんじゃない?
今のをベースにして、合間に適当に他のタイコやシンバルも叩いてみて。」
ドコココドコココズズシャーンズズシャーン・・・
そりゃあツケヤキバだからプロのドラマー並みとまでは言えないが、決して初めてとは思えない出来映えだ。
「おお、すげぇ酒井・・・」
「ホントだぁ〜、うまいうまい!それなり、それなり!」
ドコズカドコズカズシャーン!
ラストもそれなりにキマって、みんなで「おぉ〜っ!!」って拍手を送る。
最初はイヤイヤだった酒井もまんざらでもない様子だ。
北山が、今度は残った俺たち3人の方に向き直った。
「・・・問題は君たちだ。管楽器は吹くのにコツがいるから、覚悟してね。」
「は、はぁ・・・」
「これからマウスピースを順番に渡していくから。・・・まず安岡。」
「はっ、はいぃ〜!」
「君はテナーサックスね。はい、これマウスピース。」
「さっ、サックス?!」
「サックスっていったら、チェッカルズの藤井オトウトくんの楽器じゃないか!」
酒井がなんかヘンな部分に食いついているが、この際気にしないことにしよう。
「サックスはね、指は簡単だけど、マウスピースの吹き方が難しいよ。
下クチビルを下の歯にかぶせるようにして、口元を絞めて、こう・・・」
北山が練習用のマウスピースをくわえて実演してくれてるのを見よう見まねでやってみる。
「それで、吹く、と。」
すー・・・
「ん、まぁね、始めたばかりだから鳴らなくて当たり前だよね。練習すればマウスピースだけでも鳴るようになるから。」
「・・・ホントにこんなマウスピースが鳴んの?」
「うん。」
「まったく鳴る気がしないんだけど・・・」
「ダイジョウブ。」
北山の『大丈夫』って声が、やけにイイ声だ。
まぁいいけど。
「次は・・・村上。」
「おぅ・・・」
「村上はトランペット。」
「と、トランペットだと?!」
「すごい!タモさんみたいじゃないか!よく『今夜は最高!』とかで吹いてただろ?」
「へ?タモリってラッパ吹けんの?」
「タモさんいわく、トランペット向きじゃないクチビルらしいがな。」
「へぇ〜、ハツミミだわ。」
「はい村上、これマウスピース。」
「おぅ。」
「クチビルを左右に引っ張るようにして絞めて、マウスピースを当てて・・・」
北山のマネをして、村上もマウスピースに口をつけた。
すー・・・
「・・・ちっ。」
「これも何回も練習したら鳴るようになるからね。」
「マジかよ・・・」
「ダイジョウブ。」
しょんぼりと肩を落とす村上の肩をポンと叩きながら北山が励ましている。