校庭に着くと、ぐったりした生徒たちが次々と救急車に乗せられている最中だった。
そんな中、右往左往している数学の先生に北山がツカツカと歩み寄る。
「先生、すいません。」
「お、何だ?」
「補習の彼ら、テスト終わったみたいなんで、今日の野球部の応援に借りていいですか?」
「お?ああ、そうだな。みんな倒れてしまったしな・・・北山の頼みとなると・・・」
テメェ、ジジィ・・・最後の『北山の頼みとなると』っていうのは何なんだよ?
ひいきだ。ゼッタイひいきしてる。エコひいきだ。
・・・ひいきの「エコ」って何だろ?エコロジーひいき?・・・まぁ、いいか。
「じゃ、借ります。はい、これテスト用紙です。」
「おぅ。コイツら、どんどんコキ使ってくれて構わんからな。こっちは俺がついておくから頑張ってこい。」
「ありがとうございます。・・・じゃ、行こうか、みんな。」
「・・・は〜い・・・」
すっかり王子様のような貫禄さえ携えた北山を先頭に、またまたタテに連なって、今度は音楽室へと向かう。
「はいどうぞ。」
「おジャマしまぁ〜す・・・」
音楽室の準備室に入った北山が楽器をいくつか運び出した。
「今いる部員の大半はもう各自で楽器買って持ってるんだけどね、部に入りたての未経験者が何の楽器が合ってるかを判断するために、部として各種類1つずつ楽器を用意してあるんだ。」
「へぇ〜。」
「というワケで。みんながどの楽器が合っているか、今からテストするから。」
「んだよ、またテストかよ!たりぃ〜!」
北山の発言に、村上だけじゃなくて他の3人もガックリ項垂れている。
「じゃ、ね、まず腹筋。やってくれる?」
「ふっ!・・・腹筋〜っ?!」
思わず「ふ」で噴いちゃったよ!
まさかそんな指示出ると思わなかったし!
「そう、腹筋。腹筋鍛えないと音鳴らないからね。吹奏楽部のみんなも、部活始める前に毎日必ずやってるんだよ?」
「北山、テメェざけんなコラ!」
「こんな暑い中で腹筋なんかしたら、今度は俺たちまでへばってしまうじゃないか!」
「腹筋なんて音楽と関係ないじゃ〜ん!」
「口答えしないで。君たち約束したでしょ、『何でもする』って。それに・・・“俺が”、補習から連れ出してあげたんだからね。わかってる?」
「・・・・・・」
「はい、これマット。ひとり1枚持ってそこに並べて置いて、横になって。さ、時間ないよ、早く。」
北山は、吹奏楽部が日頃練習で使っているであろうヨガマット的なヤツを俺たちに配った。
村上が北山を少々小さめな目で睨みつけているが、北山はどこ吹く風、といった様子。
観念した俺たち4人は、ダラダラとマットを床に敷き、その上に横になった。
「俺、黒沢になら勝てそうな気がする。」
「何だよ村上〜?!」
「だってお前、クラス一(いち) 運動できねぇじゃん。俺はさぁ、ほら、どっちかっつ〜と運動神経いい方だし?」
「むむむぅ〜・・・反論できない・・・」
村上と黒沢がそんな話をしている。
同じクラスだったんだ、ふたり。
片や運動部、片や文化部ってカンジ。
ホント、対照的なふたりだな・・・
「じゃ、行くよ。・・・はい、1。」
北山の号令に合わせて上体を起こして倒すを繰り返す。
「・・・はい、30。」
「ぐおおおおおぉっ・・・だぁっ、ダメだ・・・!」
一番最初に倒れたのは意外にも酒井だった。
「はい、31。」
「えっ、さ、酒井っ、もう終わりっ・・・?」
俺は腹筋を続けながら、早々に脱落した酒井につっこんだ。
「ぜぃっ、俺、実はかなりのインドア派でな・・・ぜぃっ・・・瞬発力はあるが、持久力は・・・ぜぃっ・・・」
酒井は息も絶え絶えといった様子で、マットの上で寝っ転がったまま、そう答えた。
「う・・・でもっ・・・俺も、ヤバ、い〜・・・」
酒井につっこんだ俺だったけど、もうかなりキツくなってきた。
あ〜・・・目の前が暗くなってきた・・・
「はい、52。」
「ぐっ・・・あ、もうムリ〜っ!」
くっそ、首だけしか起こせなかった。
2番目に脱落しちゃった・・・ちょっとくやしい・・・
「はい、79。」
「ぐ、ぐぐぐぁぁぁ〜!!・・・くっそ・・・っ!」
俺の横で粘ってた黒沢・・・じゃなくて村上が倒れた。
「あ、あれ?俺だけ?」
「はい、82。」
「よいっ、しょ。」
「はい、83。」
「よいっ、しょ。」
先に脱落した俺たち3人はマットにのびたまま、表情変えず腹筋してる黒沢をボケ〜っと見ている。
「・・・はい、100。」
「よいっ、しょ。」
「はい、もういいよ。黒沢お疲れさま。」
「え?もういいの?はい。」
黒沢は、まるでナニゴトもなかったようにマットからヒョコッと立ち上がった。
すげぇ・・・何なの?この文化部くんは・・・
「黒沢・・・お前いつの間に運動できるようになったんだよ・・・?」
「ん?俺、腹筋だけは得意なんだよね。あとは何もできない。」
「・・・なんか・・・こんなヤツに負けたのかと思うとハラ立ってくるわ・・・」