「どうも〜、できたてホヤホヤ、ジャズ部です〜。」
また拍手が起こり、みんなでお辞儀をする。
「実は俺も音楽とジャズ始めたばっかりで・・・
今の客席のみなさんと同じで、ちょっと前まで『ジャズって何？』ってカンジだったんです。
こんなひよっこな俺たちですけど、少しでも、ジャズの・・・あと、音楽の楽しさが伝わればいいなと思っています。」
「お、安岡、ガラにもなくいいこと言ったな。」
「ちょっ、酒井！ひとこと多いからっ！」
「大丈夫っすよ〜。俺と、安岡と、酒井と、黒沢以外は、みんなうまいから、ちゃんと伝わると思いますんで。」
村上が客席に向かって、素人メンバーを順に指差し説明する。
「俺もヘタ側の人間ですけど、極力やれるだけやってみますんで！よろしくお願いしま〜す！」
「黒沢、極力って何？！極力じゃなくて全力で頑張ってもらわないと困るんだけど！」
今度こそはカッコイイＭＣにしようといろいろ何言おうかと練ったのに、またも他のヤツからチャチャが入り、グダグダに・・・。
でもお客さんみんな笑ってるから、まいっか・・・。
「じゃ、次の曲・・・ってそこいつまで笑ってんの！次、北山がキッカケでしょ！」
俺はピアノの譜面台に突っ伏してずっと笑っている北山を叱りつけた。
「はいはい。わかりました。・・・じゃ、行きましょう。」
俺のコトバにキリリと表情を引き締めた北山のピアノキッカケで、次の曲が始まる。
そこからは、もう夢中だった。
昨日の墨汁事件や、今照明が落ちていることも、アタマからすっかり吹っ飛んでる。
演奏できること。メンバーみんなが楽しそうに演奏していること。客席の熱気。
それがすごく心地いい！
楽しい時間はあっという間に過ぎ、４曲演奏し終わって、ついに最後の曲になった。
「えっと、これが最後の曲です。きっとみなさんもご存知の曲だと思います。
ウチの部長の北山がジャズアレンジをしてくれました。」
「ま、俺は部長らしい仕事ってこれぐらいしかしてないんで。」
「いやいやいや！そんなことない！・・・っていうか、卑下しすぎだから、それ！」
「北山は、あと、ほら、ビジュアル担当だろ？」
「ああ、そうだよね、俺たちだけじゃちょっと見映えに華がないっていうか・・・ってオイ村上！」
「あの〜、早くやりませんか。全然話が前に進んでないし。」
「や、酒井ぃ〜。俺はね、話 前に進めたいのよ？でもさぁ、横からみんなが、」
「さ、始めましょうか！ね！」
「ちょっ、黒沢っ！」
俺のトークを置いてきぼりにして、酒井がドラムを叩き始め、仕方なく俺もサックスを構える。
最後の曲は、結構有名な男性５人組ボーカルグループの、結構有名な曲のジャズアレンジバージョン。
客席のみんなも当然知ってる曲だから、曲が始まった途端、今まで以上の歓声が沸き上がった。
北山が何度もオジチャンの元へ足を運び、アドバイスをもらって完成させた珠玉の１曲。
俺たちジャズ部の自信作だ。
だからこの会場の盛り上がりは、最高にありがたいのだ。