「・・・許せない・・・こんな・・・!」
北山がTシャツを持ってどこかへ行こうとするのを、酒井が止めた。
「待て・・・どこへ行くんだ?」
「こんなことするのはあの人しかいない!だからっ・・・」
「行ってもTシャツは元には戻らん!ヤツのとこへ行っても、どうせしらばっくれておしまいだ!」
「でもっ・・・!」
「待って。」
今まで黙っていた黒沢が、言い争うふたりを止める。
「今日だけは俺にまかせて。ね?」
そう言って、黒沢は教室から走り出た。
「アイツぁ一体何考えてんだ・・・?」
「さぁ・・・わかんない・・・」
「俺たちも行ってみるか。」
「うん!」
俺たち4人も、ワケがわからぬまま後を追う。
ペタペタという足音を立てながら黒沢が駆け込んだのは・・・書道教室。
「すいません、書道部のみなさん!部活を終える時に捨てる墨汁ってありますよね。それ、ください!」
「今日は展示用の大きい書を書いたから、結構残ってるよ。そこにバケツ2つあるだろ?あとは捨てるだけだし、好きに持っていけば?」
「あっ、ありがとうございます!」
黒沢は両手にバケツを持ち、元いた教室に戻っていく。
「わかった!わかったぞ黒沢!」
「えへへ、そういうこと!」
「急ごう!早くやってしまおう!」
教室に戻った黒沢は、黒いシミだらけのTシャツをバケツの中に入れ、躊躇うことなく手で揉み始めた。
「ちょ、手、汚れるよ!」
「Tシャツがシミになってるより、いいもん!」
「俺も、やるわ。」
こういうことを一番嫌がりそうな村上が、黒沢と一緒にバケツに手を突っ込んだ。
「ほら〜、見て〜。黒いの、目立たなくなったでしょぉ〜♪」
「目立たないというかなんというか・・・」
「毒を持って毒を制す、ってやつだね・・・」
「ほら、しゃべってないでみんなも手伝って!これゆすいで!」
黒沢と村上が墨汁で黒く染めたTシャツを、3人ですすいでゆく。
プリント部分を残してキレイに染まり、いい風合いの黒いTシャツになった。
黒スーツ・赤蝶ネクタイTシャツの完成だ。
「あとは、俺が家に持って帰って〜、脱水して干して〜、軽くアイロンして〜・・・で、明日持ってくるから。」
「ありがと〜、黒沢・・・」
「いえいえ!どういたしまして!」
「お前明日持ってくんのゼッタイ忘れんなよ?!」
「わかってるよぉっ!」
ゴシゴシ手を洗っても墨汁は落ちなくて真っ黒なままだったけど(特に黒沢と村上の手はすごい)、もうそんなの気にならなかった。
今なら、この5人が集まったら恐いものなんてないと思える。
だから・・・きっと明日は、うまくいくよ。