ある日、校内を5人でワイワイ言いながら歩いていると、正面から歩いてくる吹奏楽部の一団と遭遇した。
向こうの部長なんか、俺たちを睨みつけてるし・・・完璧に「目のカタキ」にされているみたいだ。
吹奏楽部が俺たちの前に立ちはだかるようなカタチになる。
向こうの部長が一歩前に出て、北山の前に立った。
「・・・ヘタクソが集まって、『ジャズ部』とかっていうふざけたもの、作ったんだって?」
「ええ。ふざけてるっしょ?俺たち。」
部長の挑発に「“ヘ”でもねぇ」ってカンジで、ヘラヘラと笑いながら返事する村上。
「吹奏楽部のメンバーを引き抜いて、お前らそれで見返したつもりか?」
「俺たちはね、そんなちっぽけ〜なことのためにやってるんじゃないんですよ。」
「誰かさんなんかより北山の方が頼り甲斐があると思って、みんな勝手に辞めてこっち来ただけですよ?」
酒井も黒沢も、負けてない。
だから俺も言い返してやった。
「ヘタクソかもしれないけど、音楽を楽しむって点ではゼッタイに吹奏楽部のみなさんには負けませんよ?
今度文化祭で発表するんで、部長さんもゼヒ聴きに来てくださいね!待ってます☆」
俺たち5人、余裕の笑顔。
吹奏楽部の部長は、顔を真っ赤にしてオデコに青筋立てて、引き返していった。
へへへっ、いい気味!
でもね、俺たちの言ったことは、どれも間違ってないよ。
吹奏楽部なんかには、負けない。負けられない。
そのためにもっと頑張らないと、って5人で改めて気合いを入れた。
文化祭の日が刻一刻と近づく。
盛り上がってきた俺たちは、お揃いのTシャツを作って、それを着て演奏することになった。
酒井考案の、白スーツ・赤蝶ネクタイ柄のTシャツだ。
“変T着ててもココロは錦”、だ。
文化祭発表前日。
俺たちは居残って練習をしていた。
自分たちで言うのも何だけど、今日のゲネプロ(本番さながらのリハ)もバッチリ。
あとは明日の本番を迎えるだけだ。
他のメンバーがみんな帰った後、俺たち初期メン(「ザ・バース」のメンバーね)で居残り、MCのことなんかを練っていた。
「とりあえず、トークは安岡でいいよね。」
「お、俺ぇ?!」
「うん、安岡で!」
「ほら、俺たちは間からチャチャ入れるから。心配すんな。」
「いや、それが一番心配なんだってば!」
「じゃ、決まり!そろそろ帰る?」
「ああ、そうだな。明日に備えて、早く帰って英気を養おう。」
みんなで立ち上がり、教室を後にしようとした時、視界に捉えたあるものに何か違和感を感じた。
「・・・安岡?どうしたの?」
教室の隅に置いてある、明日着るTシャツを入れた段ボール。
ガムテープできっちり留めてあったはずのその蓋が開いている。
俺は段ボールに向かって歩いていき、そっと中を覗いた。
「!?」
白いTシャツが・・・
ところどころ黒くなっている。
「こ、れ・・・」
「どうした安岡・・・って何だこりゃ・・・」
駆けつけた村上が箱の中のTシャツを取り出すが、どれもこれも汚れており、無事なものはひとつもない。
墨汁特有のニオイがツンと鼻をついた。