静まり返った後輩の中のひとりが、伏せていた顔を上げた。
「僕は・・・この前のサマーフェスティバルでたまたまみなさんの演奏を聴いたんです。
言っちゃ何ですけど、自分よりはヘタだなって思いましたけど、」
「お前なぁ!」
あの時の演奏会に出てなかった村上だったが、後輩のコトバが引っかかったらしい。
それを俺と黒沢で「まぁまぁ」と宥め、後輩に先を促した。
「けど・・・楽しそうに演奏している姿、すごくうらやましかったです・・・。
中学の時から吹奏楽やってるけど、ここの吹奏楽部に入ってからは楽しく演奏なんてしたことなかった。
だからみなさんと一緒にやりたいと思って・・・。
でも、みなさんのおっしゃるとおりですね・・・辞める勇気もないのに『入れてくれ』なんて言ってすいません・・・。
今から退部届出してきます。退部した後で、もう一度正式にお願いにあがります。」
「・・・うん、わかった。」
「・・・失礼します。」
その後輩はアタマを下げ、校内に向かって走っていった。
他の子たちも居づらくなったのか、「失礼します」と言って逃げるように去っていった。
「・・・酒井、お前、なかなかやるじゃん。」
村上にヒジ打ちされた酒井は、我に返って顔を真っ赤にして「いやいやいやいやいや・・・」と言いながら顔を伏せた。
どうやらキャラに合わないことを言ったのが、今さらながら恥ずかしいらしい。
「や、でも俺的には、村上の言ったのも好きだったよ?どんとこい的な?・・・黒沢は?」
「俺は〜、北山のコトバがカッコよかったな〜。」
俺と黒沢は、今回あんまりカッコイイこと言えなかったからね。
ふたりで感心しきりだ。
「じゃあ彼らが退部してまた頼んできたら?」
「答えは・・・決まってるよね?」
俺たちは、倉庫に向かって歩き出した。
その後、吹奏楽部を辞めた5人の後輩が正式加入した。
元々吹奏楽部だったヤツらだから楽器はもう持ってるし(しかも俺たちの楽器よりキレイで新しい!)、あまり教えることも少ない。
時折北山がジャズの独特なリズムの刻み方や演奏方法なんかをアドバイスする程度だ。
噂が噂を呼んだのか、吹奏楽部を辞めこっちに入りたいという希望者が次々とやってくるようになった。
後輩だけじゃなく、同じ2年の生徒もいる。
さすがに3年生が来ることはなかったが、もうお米屋さんの倉庫では狭すぎる。
学校内で練習できるように、北山を部長にして「ジャズ部」を発足させた。
これで練習スペースに困ることはなくなった。
いつの間にやら、総勢20名。
人数が増えたことで、各楽器ごとでパート分けできるようにもなった。