今日もいつものように校門でみんなで待ち合わせして、倉庫に向かって出発しようとした俺たちの前に、突然数人の生徒が通せんぼするように立ちはだかった。
「・・・あ?なんだお前ら?」
受けて立とうとする村上だったが、何やら敵の様子がおかしい。
「いや、あのっ・・・ちょっとお話を聞いてほしくて・・・」
っていうかどうやら敵じゃないらしい。
「君たち・・・吹奏楽部の1年生、だよね?どうしたの?俺たちに何の用?」
元吹奏楽部の北山が一歩前に出て、彼らに尋ねる。
「あの・・・僕たちも・・・みなさんのジャズバンドに入れてください!」
「お願いします!」
一歩後ろにいた俺たち、一同唖然。
さすがの北山も、慌てて始めた。
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・君たち吹奏楽部は・・・」
「もしみなさんがバンドに入れてくださったら、辞めます!」
「どうして・・・」
「前から部長のやり方に納得がいかなくって・・・。」
「北山先輩が部長に抗議してくれるの、すごくうれしかったけど・・・肩を持てなくて・・・すいません・・・」
「でももう我慢の限界なんです!」
北山は正義感が強いから我慢できず部長に抗議して、その結果、部内の待遇が悪くなってしまった。
それはある種、見せしめのようなもので・・・誰も部長に歯向かっていこうとはしなかったんだろう。
「俺は〜・・・」
躊躇いがちに北山が口を開く。
みんなの視線が北山に集中する。
「俺は・・・吹奏楽部や部長に対抗するつもりでバンドを始めたんじゃないよ。
これ以上吹奏楽部に迷惑をかけることは・・・」
「いいじゃん。やれば?」
北山の話をポキリと折るように、村上が口を挟んだ。
「村上!?」
「理由なんかどうでもいいだろ。俺だってマトモな理由があってやり始めたんじゃないし。
それに、こいつらが吹奏楽部辞めることが、『北山が吹奏楽部にかける迷惑』ってワケになんねぇだろ。」
「そりゃあ、まぁ、そうだけどだな・・・」
北山の言い分も、村上の言い分も、わかる。
辞める理由に自分たちを使われるようなカンジもなくはないし。
俺たちだってノリでジャズを始めたみたいなもんだし、俺たちがエラそうに言える立場じゃない。
「ねぇ、どうする〜・・・?」
黒沢が俺たちの顔を順に見回してオタオタしている。
「俺が思うに〜、」
今度は酒井が口を開く。
「君たちは、あれだ・・・手順を間違えてるんじゃないのか?
俺たちがOKなら吹奏楽部を辞めて、俺たちがNOなら吹奏楽部に残るつもりだったんだろう。
自分たちの都合のいいようにしか考えてないんじゃないか?
君たちが『こっちに入りたい』っていう理由の中に、君たち自身の意志ってのが全く見えないし。
とにかく・・・部を辞める理由や逃げ道のために俺たちを使うのはやめてもらいたい。」
酒井の意見は、至極 的を射ていた。
彼らにとって「俺たちのバンドに入りたい」という熱意より、「部長につくか、それとも寝返るか」の選択肢が前面に来ている。
そのことに酒井は不満を持ったようだ。