村上が参加して、5人になった「ザ・バース」。
みんなで練習するため、今日もお米屋さんの倉庫に集まっている。
「うぃ〜っす・・・」
みんなに遅れること30分、村上がバイトを終えて駆けつけた。
「おぅ、村上。お疲れさ〜ん。」
酒井が麦茶をコップに入れ、村上を出迎える。
受け取った麦茶をグィ〜ッと一気に飲み干す村上に、黒沢が「で、どうなの?その後、特訓は〜?」と問いかけた。
「・・・ぷはっ!もう、どうもこうもねぇよ!『ヘタクソ!お前は窓拭かなくていいからトランペットでも吹いとけ!』とか言われてよぉ〜。
もはやバイトじゃねぇよ、あんなの・・・。」
「ははっ、ガソリンスタンドのバイトとは思えないね!」
その場にいない俺でも、店長さんのハシャギっぷりが目に浮かぶようだ。
「遅くなって悪かったな。じゃあ早速始めっか?」
「あ、ちょっと待って!」
村上が、自分が遅れてきたことを気にして仕切り直したが、北山がストップをかける。
「どうしたの?北山。」
「あのさ、みんな集まったとこで聞いてほしいんだけど。」
「ん、何?」
「秋の文化祭にさ、・・・出てみない?」
「ほぅ・・・おもしろそうだな。」
北山の案にすぐさま食いついたのは酒井。
「文化祭で演奏するの?うわ、楽しそう!」
「・・・ま、いいんじゃね?やってみりゃ。」
黒沢も村上も賛成といった様子。
「・・・安岡は?」
「・・・もちろん!やろうよ!」
俺もやりたいに決まってんじゃん!
「よっしゃ、じゃあ次の目標は決まりだな。」
「その前に頑張って曲数増やそうぜ。」
「そうだ、北山!」
「ん、何?」
「せっかくやるんだったらさ、ジャズ知らないみんなにも楽しんでもらえるように、みんなが知ってる曲、ジャズアレンジしてやってみようよ!」
「ジャズアレンジ・・・?」
「編曲だよ、編曲!」
「え、あ・・・いいの?俺がやって・・・」
「もちろんだよ!もし困ったらさ、オジチャンたちにアドバイスもらえばいいワケだし。ね!」
「うん、わかった。やってみる!」
「そう来なくっちゃ!」
残り少ない夏休み、俺たちは文化祭へ向けての練習を開始した。
そして迎えた新学期。
学校の授業を終え、向かうはお米屋さんの倉庫。
もうお店は手伝えなくなったけど、お米屋さんのご厚意により練習場所は引き続き貸してもらえることになった。
自分たちで言うのもなんだが、演奏も上達してる!・・・と思う、よ?
「なんか、いいカンジじゃね?」
「うんうん!『俺、カッコイイ!』ってカンジだよね〜!」
「いや、お前はそんなにカッコよくねぇ。」
「何だよ村上〜!」
相変わらず村上は、黒沢に対して“遺伝子レベル”の負けず嫌いを見せている。
飽きないね〜、まったく・・・。
演奏する曲目は決まった。
誰しも一度は聴いたことがあるスタンダードなジャズの名曲を4曲と、最近の人気曲のジャズアレンジ1曲の、計5曲。
北山の編曲作業の方も進んでいるらしく、時々オジチャンの店に行ってはアドバイスを受けているようだ。