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バタバタと駆けつけた俺たちに一番最初に気づいたのは、ガソリンスタンドの店長さんだった。

「お〜ぅ、哲也〜。」
「店長っ、ビックリしたじゃないですか!出るなんてヒトコトも言わないから・・・」
「先に言ったらおもしろくないだろう?」
「いや、それもそうですけどぉっ・・・」

俺以外のみんなはまだ話が見えておらず、ふたりを不思議そうに見ている。
俺は「Moon Glows」のメンバーに村上を紹介することにした。

「彼、村上って言います。一緒に『バースのテーマ』を演奏した時の、トランペット担当です。」
「えっ、哲也、それホントか?」
「いやっ、演奏したってほどでは・・・あのっ・・・」

それに応えるように、オジチャンが今度はガソリンスタンドの店長を紹介する。

「君たちは彼と会うのは初めてだったな。『Moon Glows』のトランペッターだ。普段はガソリンスタンドをやっている。」
「ガソリンスタンド?!」
「もしかして・・・村上のバイト先の?!」
「どうやら、そのようだな。・・・この5人で『Moon Glows』フルメンバーだ。」

オジチャンがタバコに火をつけながら答えた。

「君たちから『ジャズを教えてくれ』って言われたってのは、話に聞いてたよ。
でもトランペットのヤツが『バイトの方がいいって断った』って言うから俺の出番がなかったんだよ。
あれ、お前だったのかコラッ!ちょっと寂しかったんだぞっ!」

ガソリンスタンドの店長さんが村上の頭を小突いた。

「いやっ、だって・・・そんなの、店長だなんて知らなかったんすから!」

そんなふたりのやりとりにドッと笑いが起こる。

「村上くん、と言ったかね?」
「あ、はい・・・」

オジチャンの呼びかけに、村上が緊張した面持ちで返事する。

「彼らの演奏、そしてワシらの演奏・・・聴いてどうだったかな?」
「いや、どうって・・・その・・・」
「ん?」
「・・・こいつらの演奏はおいといて・・・」
「おい、何だよ、おいとくなよ!」

村上の言い方に酒井がつっかかるが、村上は話を続けた。

「みなさんの演奏は・・・すごかった・・・カッコよかったっす・・・」
「そうか。でも、彼らの演奏もこれからもっとかっこよくなるぞ?・・・トランペットが入ったらな。」
「え・・・や、あのっ・・・」

戸惑う村上に、店長が横から「やっちゃえやっちゃえ!」と囃したてている。
それをマスターが「お前、教えたくて仕方ないだけだろ!」と突っ込み、また笑いが起こる。

ここはもう一押し!
思いきって、俺しか知らない秘密を明かすことにした。

「村上は、『バースのテーマ』の時、途中でクチビル切れたんけど文句言わずにずっと吹いてたんです。
だからきっと村上もトランペット、好きになってるはずです!」
「ちょ、安岡っ、余計なことをっ・・・!」
「へぇ、そうなんだ?!やるじゃん!」

慌てる村上。
感嘆の声を上げる黒沢。

さらに酒井が追い打ちに拍車をかける。

「そういえば・・・村上は、黒沢に負けるのが大嫌いだったなぁ。
中途半端でやめたお前・・・今も続けてる黒沢に負けてんぞ?」
「なっ・・・?!」
「・・・なぁ、哲也よ。」
「はっ、はい・・・」
「オトコなら・・・モノゴトを中途半端で終わらせんなよな・・・?」

店長はすっごい低音で村上の耳元で凄んだ。
昔ワルかったんだろうな、この人・・・だって言い方が素人じゃないもん!!

「わ・・・わかり、ました・・・やります、俺・・・」

店長の脅しに、村上が折れた。

「やった〜!」

そのことにバンザイしたのは俺だけじゃない。北山も、酒井も、黒沢も。そして店長も。
バンザイ三唱だ。

「よっしゃ、じゃあ早速俺がお前に、みっっっっちりと教え込んでやる。
俺のスパルタ式特訓ですぐに他のヤツらに追いつかせてやるから。心配するな。な?」
「スパルタって・・・それが一番心配ですよぉ〜!」

早くもヤル気マンマンの店長と、早くも泣きごとをこぼす村上がおもしろくって、みんな三たび笑った。


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