「・・・何だよ、またお前かよ・・・」
ガソリンスタンドで客待ち中の村上に手を振ると、開口一番そんな風に言われた。
「あのさ、村上・・・」
「・・・何だよ。」
「来週の日曜なんだけど、市民サマーフェスティバルの演奏会に、俺たち4人出ることになったんだよね。」
「ふぅん・・・それはそれは。よかったじゃん。」
「だからね、ゼヒ村上にも来てもらいたいな、って思って・・・」
「・・・覚えてたらな。」
「うん、ゼッタイ覚えてて!じゃ、また!」
言いたいことだけ言って俺は帰った。
あんまりしつこく言ったら、村上の性格上、意地でも来なくなりそうだから、こじれる前に切り上げたのだ。
村上、あんなこと言ってたけど・・・きっと来てくれるって、信じてる。
お米運んだり、タオル干したり、コーヒーカップ磨いたりしながら練習を重ね、やっと迎えた演奏会当日。
お揃いの服、つまり制服の夏服をバッチリ着て、俺たちは舞台裏にいた。
今は地元のママさんコーラスが、「♪な〜つを愛するひ〜と〜は〜」などと歌っていて、俺たちの番はその次だ。
「うぁ〜・・・キンチョ〜してきた〜・・・」
心臓のある辺り手でを押さえうわごとのように呟く。
「あんなヘっタクソだった『バースのテーマ』の時より緊張してるんだが・・・こりゃどういうことだ・・・」
「ほら、あん時はヤケクソだったし〜・・・」
酒井も黒沢も同様のようで。
落ち着いているのは、演奏慣れしている北山だけだ。
「ダイジョウブ。きっとうまくいくから。」
「だといいけど〜・・・。」
そんな会話の中、運営の担当者がやってきた。
「次、出番なので、頼むね。」
「あっ、はい!」
「今回正確なエントリーでの出場じゃないから、君たちのデータが全くないんだよ。
司会進行のためにいくつか聞いておかなくちゃならないんだ。まず、バンド名は?」
「へ・・・?」
「バンド名。」
「あっ、えっと・・・」
考えてなかったぁぁぁ!
と焦っていたら、横にいた黒沢がスッと手を挙げた。
「あっ、じゃあ『ザ・バース』で!」
「ちょっ、黒沢っ?!」
「おまっ、なんだその名前は?!」
「『ザ・バース』ね〜。」
復唱しながらメモる担当者。
俺と酒井は見えないところで黒沢に小さくワンパン入れてやった。
北山はクスクスと笑っている。ヒトゴトかよ〜!
「どこの学校?」
「G高校の、全員2年生です。」
「ふむふむ・・・全員、2年、ね・・・。で、演奏するのは?」
「ジャズの名曲メドレーを。」
「えっと・・・ジャズの、名曲メドレー・・・ね。OK。あっ、ママさんコーラスがもうすぐ終わりそうだな。じゃ、舞台袖に向かって。よろしく〜。」
「あっ、はい、こちらこそ、よろしくお願いしま〜す!」
みんなで頭を下げ、舞台袖に走った。
大きな拍手とともに、ママさんコーラスがヘンなムームー的なファッションで反対側の舞台袖に消えていく。
「じゃ、行くぞ。」
ベタに4人で円陣を組み、その中心に手のひらを重ねて、「お〜っ!」なんて雄叫びを上げた。