北山が退部届を出しに行っている間、俺と黒沢は階段に腰かけ、北山が戻るのを待つことにした。
「へぇ〜、そんなことがあったんだぁ〜。」
「そうなんだよ。オジチャンとの偶然の出会いが、ジャズとの出会いだったってワケ!」
「ふぅ〜ん。」
「・・・あ、そうだ!せっかくだからさぁ、あのふたりも呼びたくない?」
「あのふたり・・・?ああ、村上と酒井かぁ〜。」
「そうそう、また5人でやりたいじゃん・・・ってダメだ、連絡先知らないや、俺・・・」
「俺知ってるよ。」
「へぇ〜そうな・・・マジで〜??!!」
黒沢があまりにもサラリと言うもんだから、思わず聞き逃しそうになってしまった!
「いや、正確にいうと酒井だけね。酒井は同じ美術部だから、連絡名簿見ればわかるし。
村上はねぇ〜、直接は知らないんだけど、共通の友達がいるから、そいつに言えば連絡つく。」
「黒沢でかした!っていうか、そういうことは早く言ってくんなぁい?!」
というワケで、あとで黒沢からふたりに連絡してもらう手筈(てはず)になった。
「お待たせ。」
「おかえり北山。」
「どうだった?」
「受理してもらったよ。これで俺も自由の身。」
退部完了した北山の顔はどことなく晴々しいカンジがした。
その表情を見て、俺までホッとしたりして。
「あ、そうだ。あのさ北山、あのふたりも呼ぶことにしたの。いいかなぁ?」
「うん、もちろん。せっかくやるんなら、あの5人がいいよね。」
北山も笑顔で賛同してくれた。
あ〜、なんだかイイ展開になってきたぞ〜♪
店のドアを開けて入ってきた俺が、何の前触れもなく北山と黒沢を連れてやってきたので、オジチャンはちょっと驚いていた。
「前に話した『バースのテーマ』のメンバーだよ。」
「ああ、彼たちか。」
「一緒にジャズ演奏したいなって思って連れてきたの。」
俺が説明すると、オジチャンの顔から戸惑いは消え、いつもの朗らかな笑顔になった。
「今日はこの2人だけだけどね。こっちがキーボードをやった北山。で、こっちがトロンボーンをやった黒沢。」
「はじめまして。」「こんにちわ〜。」
「ようこそ、いらっしゃい。」
「あの〜、さ、オジチャン。」
「ん?」
「俺だけじゃなくて、みんなにもジャズ教えてくれないかなぁ・・・?」
「・・・ふむぅ、そうだなぁ・・・タダとはいえ、さすがに何人も雇うほどの仕事はないからな。」
「・・・そっかぁ。そうだよね〜・・・。」
たしかに・・・。
梱包の仕事なんてひとりいれば十分だもんな・・・。
オジチャンのコトバに俺はガックリと肩を落とした。
「ただし、」
「え?」
「この近くに何軒か、同志がやってる店があってな、そっちの仕事をちょこっと手伝ってくれるんなら、よしとしよう。」
「ホントですか?!」
うなだれていた顔をパッと上げる。
オジチャンはいつものように缶ピースの煙を深く吸い込みながら、うんうんと頷いた。
「ああ。交替交替でこっちの店と他の店、みんなでまんべんなく手伝ってくれればな。
楽器はボロしか提供できないが、それでいいか?」
「はい、もちろんです!」
「やったね〜!」
俺だけじゃなくて北山と黒沢も大喜び。
オジチャンは早速その“同志の店”に連絡を取ったり、楽器の手配などに取りかかった。
オジチャンがそれにかかりっきりになるため、今日は3人で梱包作業を行った。