「は〜い、静粛に〜。」
「北山。はい。」
仕切り直そうとする北山の横で、今度は酒井が挙手した。
「はい、酒井くん。」
「えっと、村上の言い分も黒沢の言い分もわかった。
黒沢の言うとおり、さすがに女装というのはかわいそうだと思う。
そういうのをみんなでおもしろがってさせるっていうのは悪い風潮だ。・・・」
ほらな〜?誰しもそう思うよな〜?
普通のイジメならさ、何とか打ち勝てる精神は持ち合わせていると自負しているけど、こういう新手(あらて)のイジメっていうのは対処が難しいよね、うん。
「でも〜、これは俺が今思いついた案なんだが、劇に漫才を組み込むっていうのはどうだろう?
前例もないし、斬新でおもしろそうだと思うんだが?」
「ま・・・」
「何それ、おもしろそう!」
『待て酒井、何言ってんだよ!』と言おうとした俺のコトバは、安岡の賛同の叫びをキッカケに起こったざわめきによって飲み込まれた。
「村上と黒沢が主役として漫才やってもいいし、劇のストーリーテラーとして漫才やってもいいし!」
「ちょ、安岡!漫才やりたがってるのは村上だけだから!何で俺の名前が逐一入ってる?!」
「たしかに、今展開されてる村上と黒沢のかけ合い、かなりおもしろいよね。」
「北山っ、だからこれは『かけあい』じゃなくて『ケンカ』だって言・・・」
「賛成の人〜?」
酒井が俺のことそっちのけで挙手での採決を行った。
みんな自分には面倒なことが回ってこなさそうと判断したのだろう、俺以外の全員が手を挙げた・・・!
イジメだ!これは間違いなくイジメだ!
『クラス対抗イジメ大会』優勝だ、このクラス!
ってそんなものはないか・・・
「反対してるのは黒沢だけだぞ?」
「ちょっと、ま、待ってよ!こんなのってアリかよ!みんなひどいよ!」
この理不尽な流れに、俺は焦って喚き散らした。
「先生・・・」
学級委員のふたりは、見守る立場に徹してきた鈴木先生に意見を求めた。
「たしかに、本人の納得なしにムリヤリさせるのはよくないな。
漫才スタイルにするかどうか、するとしたら誰がやるのか・・・それはひとまず置いといて、先に劇の内容を決めてみたらどうだ?」
「・・・わかりました。では先に何のテーマで劇をするか考えましょう。」
鈴木先生の助言で、なんとか不可解な指名は免れたようだ。
ほっ・・・助かった〜・・・一時はどうなるかと・・・
興奮のあとの放心で、その後の話し合いについてはあまり覚えていない。
気づいた時にはすでにホームルームは終わってて、黒板に『劇のテーマ:日本史年表っぽく、いろんな時代をダイジェストで!』と書いてあった。
「ふぅん『日本史ダイジェスト』かぁ〜・・・縄文式土器とか作りたいな〜、マジで。」
誰にも聞こえないようにひとりごとを呟いて、1時間目の授業の教科書を準備した。