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「な?俺たちはケンカなんかより漫才の方が性(しょう)に合ってんだよ。だからさぁ〜・・・」
「帰る!」
「どこへ?!」
「実家に帰らせていただきます、ってそうじゃなくて!『帰る』って言ったら『家』に決まってるだろ!」

しまった!
つまんない返しをしてギャラリーを笑わせてしまった!

「おお〜っ、黒沢くんは“ひとりノリツッコミ”とか高度な技も使えるんですね〜。」

へぇ〜、なんて言いながら、手のひらにメモる仕草をする、目の前の憎たらしいヤツ。

「メモんな!っていうかお前メモ持ってないじゃん!」
「あっ、これね、メモじゃなくて『あんきパン』なんです。食べたら、ほら、忘れない!」

パントマイムで、手のひらの上の『あんきパン』らしきものをワシャワシャと食いやがった。

「そんなことぐらい『あんきパン』使わずに覚えろよ!」
「いや、念には念を。歯には歯を。」
「ハムラビ法典かよ!」
「『黒沢くんはツッコミもバッチリできます』、と。」
「だから『あんきパン』に書くなって言ってんだろ!」
「食う?」
「いらないよバカ!なんでこんなとこで ありもしないパン食わないといけないんだよ!」
「今後の漫才活動には必要です。」
「だからしないってば!何で俺がまだ名前も知らないヤツと漫才なんかしなきゃなんないんだよ!」
「あ、名前名乗り忘れた。俺、村上。村上哲也。ほら、『あんきパン』に俺の名前書いといてやったから、これ食って覚えて。」
「いらない!覚えない!村上なんて名前、ゼッタイ覚えないからな!」

俺は引っ張っても引っ張っても外れない手を、逆に押して、相手がひるんだスキに手を振りほどいて再び逃げ出した。

「名前ちゃんと覚えてくれたじゃねぇかよ黒沢〜!!」

遠くからそんな大きな声のツッコミが聞こえたが、俺は構わず家に逃げ帰った。

はぁ・・・転校したての中学でこんな目に遭うとは・・・
明日からあの村上とかいうワケのわからないヤツと同じクラスで過ごさないといけないのかと思うと・・・

ダメだ、気が重くなってきた・・・


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