「じゃあ、今日は特別!黒沢くんにはスペシャルメニューを食べてもらおかな〜。」
「えぇ〜、黒沢だけ?いいなぁ〜!」
「ええやないの!黒沢くんは初めて来てくれたんよ?やいやい言いなさんな。ねぇ〜、黒沢くぅ〜ん?」
丸い銀色のボールの中の生地を小気味よいリズムで混ぜたオバサンは、手際よく鉄板の上に生地を流していく。
大きな換気扇が回っているのに、俺の席までうまそうな香りが漂ってきた。
あんまりおなか空いてなかったはずなのに、食欲が湧いてきた。
ガラガラと引き戸が開く音がする。
みんな一斉に顔をそちら側に向けた。
「ただいま〜。」「こんばんわ〜。」
村上と安岡が入ってきた。
クラブ帰りなのだろう、ふたりとも首からタオルを下げている。
俺がここに着いた時はまだ明るかったのに、ふたりの背後には真っ赤な夕焼けが見える。
「おぅ、おつかれ〜。」「おつかれさま。」
「安岡くん、いらっしゃ〜い。・・・哲也、ほら、はよ手ぇ洗って手伝いなさい。」
「・・・はいよ。」
安岡はコップに水を汲んで俺の隣の席に腰かけ、村上はカウンターの中で石鹸で手を洗っている。
「オバサ〜ン。俺、イカ玉で〜。」
「は〜い、安岡くんもイカ玉やねぇ〜。・・・哲也っ、何モタモタしてんの!はよしなさい!」
「はいはい・・・。」
「ほら、これ、ブタ玉が酒井くん、イカ玉が北山くんのやから。はよ持っていったり。」
「はいはい・・・。」
「『はい』は1回って言うてるでしょ!お客さまの前ではちゃんとしなさい!」
村上は、叱られながらも特にダメージを受けた様子はない。
普段どおりの表情のまま、大きなヘラのようなモノの上にのせたお好み焼きを運んできた。
「ほらよ。」
「おお、サンキュ。」「ありがとう。」