「ほな、店の電話使ってちょうだい。」
「あ、いえ、携帯電話があるんで・・・」
「あら、黒沢くん、携帯持ってんの?」
「ええ、両親が共稼ぎなんで、何かあった時用に持たされてるんですよ〜。」
「あら、そうなん。ウチの子にはまだ携帯持たせてへんわ〜。
高校入って自分でバイトしたお金で料金払えるようになったら、持っても構(かま)へんでって言うてるねん。
ほら、それに、ウチの子に携帯持たせたら、勉強せんとやらしいサイトとかばっかり見そうやろ?」
オバサンがそう言った途端、向かいに座ったふたりがブ〜ッと噴き出した。
「あははははは!」「た、たしかに!ははは!」
ふたりはオバサンの息子さんを知ってるらしい。
引っ越してきてから、俺だけがわからないって場面に結構遭遇している。
こういう時、自分だけまだヨソモノ〜ってカンジがするんだよね〜・・・。
「・・・あ、黒沢。電話しなくていいのか?」
ひとしきり笑い終わった酒井が俺に訊いてきた。
「あ、うん。今からしてみるよ。」
携帯を取り出して母さんに電話をかけると、呼び出し音3回ぐらいですぐに繋がった。
ちょうど今仕事が終わったところで、これからスーパーに寄って買い物をして帰るつもりらしい。
俺は「晩ごはんを食べて帰るので今日はいらない」と伝えた。
『晩ごはんを?どこで?』
「いや、あの、お好み焼き屋さん、が・・・ごちそうしてくれる、って・・・」
『えぇ?ごちそう?』
なんでいきなりごちそうしてくれることになっているのか、母さんは理解できていないらしい。
当たり前だ。俺だってよくわからないままここに連れてこられて、なぜかお好み焼きを振る舞われることになってしまったんだもん。