「本当ですか?!事務室には財布は残ってませんでしたが・・・警察へは?」
「あっ、交番にはっ・・・もう届け出たんですが・・・今、無一文で〜・・・」
「・・・そうですか・・・じゃあ・・・」
事務局長は自分の財布を取り出し、1万円札を取り出した。
“初代”福沢諭吉だ。
「貸しておきますよ。どうぞ。」
「そんなっ!ダメです!」
「あげるとは言ってませんよ?あくまで貸すだけです。」
「そ、そうなんですけどぉっ」
「さ、遠慮せずに。」
事務室長は引く様子は見せない。
仕方なく受け取ることにした。
「すいませんホント・・・ありがとうございます・・・」
「ははっ、そんな申し訳なさそうな顔しなくても・・・」
「だって俺〜・・・」
ホントは嘘ついてるんです、事務室長・・・
ホントは安尾なんて名前じゃなかったんです。
ホントは事務室なんて勤めるつもりなんてなかったんです。
ホントは財布落としてないんです。
ホントは・・・未来から来たミュージシャンなんです〜・・・
こんないい人相手に嘘はつきたくない。
なのに本当のことは言えない。
・・・くそぅ・・・もうやだ、こういうの・・・
「ぐすっ・・・俺ぇっ・・・迷惑かけるつもりはなかったんですよぉぅ〜・・・ぐすっ・・・」
「あぁっ、安尾さんっ、何も泣かなくても・・・」
「じむしつちょ〜・・・ぐすっ・・・」
事務室長はおろおろうろたえて、俺を事務室の中の応接セットに案内した。
さっき面接したソファに逆戻りだ。