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何だかとんでもないことになってしまった・・・。

事務室の中に設けられた応接セットに座り、事務室長、つまりさっきのオジサンと向かい合わせ。
心臓はバクバク鳴って、不整脈でもあるんじゃないかって不安になる。

「お名前は?」
「やすお・・・安尾・・・安尾優太、です。」

俺は偽名を使い、その後も事務室長の質問に嘘八百の返答を繰り返した。
なぜなら、ここでホントのこと言っても誰も信じないだろうし、それなら逆手にとってこの面接を楽しんでやろうじゃないかと思い立ったからだ。

「では、早速ですが明日から来てください。」
「えぇっ!そんなにすぐ決めちゃっていいんですか!?」
「ええ、今日あなたの他に5人面接したんですが、あなたが一番マジメそうに見えますし、受け答えもしっかりしてましたのでね。」

まさかホントに受かるとは思わなかったよ・・・履歴書すら持ってなかったのに。
これまで培ってきた話芸がこんなとこで役立つなんて。
ごめん、ちゃんと受けに来た5人のみなさん・・・俺、プロだからインタビューは慣れてんだよね。

「・・・ありがとうございます。」

深々とお辞儀をすると、事務室長は勤務内容の詳細を話し始めた。

授業開始の30分前が始業時間。
終業時間は午後5時。
土曜日は昼1時まで。
学校の経理関係、来客の受付・接待、鍵の管理、郵便物の受け取り・発送、消耗品の在庫管理などなど、仕事は多岐に亘る。

説明が終わり、その後必要書類の記入を行い、そこで面接は終了した。

「では明日お願いしますね。」
「こちらこそ、お願いします。」

事務室長に頭を下げ、事務室を後にする。

・・・ふぅ、何とか警察に突き出されずに済んだ〜・・・。

でも、もし明日までに元の時代に戻れなかったら・・・ここで働くの?俺・・・
人生初のサラリーマン生活ってやつ?・・・すげぇ〜。

校門を出て、はたと足が止まる。

この後どうしよう。
とりあえずノド乾いたな。

近くにある販売機に近づく。

あ〜、こんなジュースあったあった!懐かしいな〜!
値段は110円。消費税3%時代か。

俺は無難に缶コーヒーを買おうと財布にあった500円玉を投入した。

が、コインは素通りし、カランと音を立てて返却口に落下してくる。
何度試してもボタンが点灯する様子はなく、コインは戻ってきてしまう。

「もうっ、何で・・・!?」

わかった!もしかして平成元年って、まだ新500円玉できてなかったのか!
あ、そうだ、100円玉なら販売機通るじゃん。
店だったらちょっと厄介なことになりそうだけど、販売機なら製造年までは読み取らないだろう。
(騒動にはなるだろけどね。)

・・・って、100円玉ない・・・持ってないよ・・・
こういう時に限って、ないんだよな〜・・・

じゃあお札・・・ってダメだよ!
500円玉がダメだったんだから、野口英世が反応するワケないじゃん!

困った・・・これは本格的に困った・・・

「ちょ・・・俺これからどうしたらいいんだよ・・・」

俺は絶望のあまりその場に立ち尽くしたのだった。


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