「ちょっと!」
後ろから呼び止められ、俺は立ち止まり振り向いた。
「あなた誰ですか?部外者の方は許可がないと校内には入れませんが?」
俺が今立っている真横にある事務室から出てきたと思われる初老のオジサンが、俺のことを訝しげに見ている。
「いや、あの〜、今日プロモーションビデオの撮影でこちらに寄せていただいているゴスペラーズという者ですけども〜・・・」
「プロモーションビデオ?撮影?何ですかそれは。そんなもの、していませんよ?」
俺はオジサンの後ろに見えたホワイトボードのスケジュール表に違和感を覚え、俺は目を見開いた。
そこに記載された日付は、
・・・平成元年○月○日。
「あの〜、ホワイトボード、平成元年になってますよ?間違ってます。」
「は?間違ってませんよ。あなた、もしかして年号が昭和から平成に変わったの、知らないんですか?」
「・・・へ?は?え?な、何ですか?そうじゃなくて、今平成19・・・」
「今年の頭に、昭和天皇が崩御されて、小渕官房長官が、ほら、『平成』って紙持ってたでしょう?
あんなにニュースでやってたのに知らないとは・・・。」
いや待てオジサン。
というか、待て俺。
さっき地面が大きく揺れてから、確かに様子がおかしい・・・
メンバーもスタッフもみんないなくなっちゃったし。
今日は祝日で、部活やってる生徒以外はいないはずなのに、制服を着た生徒が普通に廊下を歩いている。
それに・・・生徒の髪型といい、事務室の窓から見える女性事務員のファッションといい、今と少し違う。
もしかして・・・ホントにここは平成元年なんじゃ・・・?!
「あなた怪しいですね・・・。警察に通報しましょうかね。」
警察に通報されたら、俺困る!
だって、もしここがホントに平成元年だとしたら、この時代の俺はまだ福岡で中坊だし・・・
大人になった俺が今ここで身分を証明できるものは何ひとつない!
「いやいやいや!違います!俺っ、面接に・・・」
俺は、事務室のドアに貼られた『事務員
面接会場』という紙を指差した。
咄嗟に考え付いたアイデアだが、とにかく今、この場面を乗り越えなければ話にならない。
「・・・へぇ・・・そうだったんですか・・・じゃあ、中へどうぞ。」
「は、はい・・・」