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【9.めぐり逢うために、ただ】

 

「さて、と。事故現場に戻るか。」

 

現場に戻ると、ベニヤやガラスなどはすべて片づけられていた。
校舎裏には誰もいない。
さっきの騒ぎが嘘のように静まり返っている。

俺はそこに立って辺りを見渡した。

黒ぽんはここで絵を描きながら、俺たちの練習を聴いていたんだな。

たしかにここにいると音楽室の様子がよく見える。
3人が荷物をまとめながら話している声も聞こえる。

カバンを担ぎ、窓をすべて閉めた3人はドアの方に向かって消えていった。
そして音楽室は消灯され、真っ暗になった。

なんだか遠回りしたけど、ふたりを結びつけることができた。
これでゴスペラーズも・・・?

俺は、咳払いをひとつして、発声練習を行った。

「♪Ah〜、Ah〜、Ah〜・・・も、戻った・・・よかったぁ〜・・・」

ゴスペラーズが無事だった・・・ってこと、みたいだ・・・。

「長かったぁ〜・・・ここまで・・・」

この時代に来てから思い悩んでいたことが解決した安堵感で、俺はその場に座り込んだ。

「ひやっ・・・?!」
ふと、指先に冷たいものが触れ、ガラスの破片かと手を引っ込める。
そしてその正体を確かめるべく顔を近づけた。

さっきセットが落下した時、一緒に落ちてきたのだろう、金属製のストップウォッチだった。

あ!・・・これ、もしかして・・・俺がPVの撮影の日に見つけたストップウォッチなんじゃないの?!

俺はゆっくりとそのストップウォッチを拾い上げ、ツバを飲み込みながらそのボタンを押した―――


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