「ここは私がついて行きますんで。」
保健室の先生の言葉に、黒ぽん以外の全員で「お願いします」と頭を下げる。
救急隊が黒ぽんをストレッチャーに移している時、テツが黒ぽんに歩み寄った。
「黒沢ぁ。」
「ん?何?」
「文化祭、一緒に歌おうぜ。」
「え?でもメンバーは足りてるんじゃ・・・」
「お前と安尾さん、交代。」
「え、でも、」
「『でも』も『へったくれ』もねぇんだよ!これは安尾さんとの約束、なの!」
「約束?」
「ああ、『ふさわしいメンバーが見つかるまで』っていう約束。ふさわしいメンバーが見つかったからさ。」
「『ふさわしい』って・・・俺が・・・?」
「ああ、そうだ。お前を強制的にメンバーに入れることにしたから。拒否権なし。」
「マジで・・・?俺でいいの・・・?」
「マジだ。っつか、何回もおんなじこと言わせんな!」
「ひぇっ・・・ご、ごめん・・・」
「・・・早く戻ってこいよ、文化祭まで日がないし、ビシビシ鍛えてやるから。」
「・・・うん・・・わかった・・・」
黒ぽんはテツに半ば強制的にメンバーに入る口約束をさせられて、保健室から運び出されていった。
遠ざかるサイレンの音を耳にしながら、保健室を後にする。
「浜野ぉ。平井ぃ。」
「ん?」「何?」
「俺も黒沢の様子見に病院に行ってみるわ。今日は練習はこれで終わりでいいか?」
「わかった。」
「じゃ、帰る準備、するか。」
浜野くんと平井くんは、戸締りなどのため音楽室に向かって歩き始める。
テツは、後ろを歩いていた俺の方を振り返った。
「安尾さん。」
「ん?」
「思わぬところに“ふさわしいメンバー”いましたね。」
「だろぉ〜?」
俺はテツに向かってニヤリと笑った。
「俺、さっきのセット崩壊の件でいろいろやることあるから、行くね。」
「はい。わかりました。・・・安尾さん、いろいろと手伝ってくれてありがとうございました。」
「いや、俺は何も・・・」
過去を混ぜ返してしまったから、礼を言われると困ってしまう・・・。
「じゃ、失礼します。」
「は〜い。黒沢くんに『歌、頑張って』って言っておいてね。」
「は〜い!」
テツは俺に大きく手を振り、走り去っていった。