【8.早く、早く。】
それから数日が経ったある日の放課後。
俺はいつものように、テツたちと練習をしていた。
「♪Oh〜・・・あ、あれ??」
俺、今日はなんだかノドの調子がよろしくない・・・ようだ。
「ごめん、村上くん、ちょっと止めてもらっていいかな?」
「あ、はい。いいっすよ。」
テツたち3人は歌うのをやめ、飲み物などを口にしている。
俺は輪から外れて発声練習をしてみた。
いつものような声量もないし・・・
声域も、少し狭いような気がする・・・
歌手をやってて、調子が悪い時っていうのは たま〜にあることだけど・・・こんな感覚は味わったことがない。
『安岡。お前はもう少し声量をつけて声域を広げろ。プロとしてやっていくんなら、そんなんじゃ通用しねぇぞ。』
デビュー直前のいつぞや言われたテツの言葉が頭に浮かぶ。
テツにそう言われて猛練習を開始した、まさにその時と同じような もどかしい感覚・・・?
いや・・・それだけじゃない・・・
この声量と声域は・・・間違いなくデビュー前の俺と同じ・・・?
ま、まさか、これ・・・
“ゴスペラーズとしての俺”が消えていってるんじゃないか・・・?!
だって・・・プロにならなかったらきっと猛練習なんてしてなかったし、声量も声域も広がりを見せなかったはずだし!
猛練習以前の状態に戻るってことは、このままいけば・・・ゴスペラーズの結成が消えてしまうってコトじゃないか!
「消える・・・!」
「安尾さん・・・?」
「もうダメだ、タイムリミットが来てる・・・」
「安尾さん?どうしたの?具合悪い?」
「ここは・・・俺じゃダメなんだよ・・・俺じゃダメだっ・・・!」
俺は音楽室から飛び出した。