「安尾さんっ、一緒にメシ食いながら練習しましょうよ。」
「いや、今から黒沢くんと」
そう言いかけた俺の話を遮るように、黒ぽんが口を開く。
「安尾さんは今から俺と一緒にカレー食うの。俺の方が先約だし。」
「はぁ?」
ぽや〜んとしているのに意外と我の強い部分もある黒ぽんの言葉に、ムッとしたように眉間にしわを寄せるテツ。
「安尾さん、早く食堂行こう?」
「ちょっと待てよオイ。」
「いや、ちょっと、ふたりともっ、落ち着いてっ・・・」
「黒沢、悪いけど安尾さん貸してくんねぇ?お前なんかとメシ食うより大切なことがあんだよ。・・・わかるよな?」
売り言葉に買い言葉。
テツの口調が変わったのがわかる。
「ちょ、何言ってんのテ・・・」
「・・・あっそ・・・好きにすれば?・・・じゃ・・・」
黒ぽんは俺とテツの元から走り去ってしまった。
「待ってよ黒っ・・・もう!テ・・・村上くんのバカ!もう俺、一緒に歌わないからな!」
俺は黒ぽんを追いかけるため、テツをその場に置いて俺も走った。
けれど、黒ぽんはどこへ行ってしまったのか姿を見失ってしまった。
「・・・黒ぽ〜ん・・・どこ行っちゃったんだよ〜・・・」
放課後。
俺が事務室で仕事をしていると、しょんぼりと肩を落としたテツが現れた。
「安尾さぁ〜ん・・・」
「村上くん・・・?」
「あのぉ、今安尾さんに抜けられると困るんですよ・・・だから辞めるなんて言わないでくださいよぉ・・・」
「いや、だけど・・・俺も、困るんだよ・・・俺のことで誰かと誰かがモメたりするの、嫌だし・・・」
「・・・すいません・・・でも、昼休みが空いてるんなら、と思って。誰かとメシ食うぐらいなら、その時間で練習できるし・・・」
「村上くんの気持ちもわかる・・・完璧な状態で文化祭当日を迎えたいっていうのは。
でも俺にとっては、村上くんたちと同じぐらい黒沢くんのことが大事なんだ。比べることなんてできないんだよ。
・・・お願い、村上くん。発表当日、絶対にいいカタチで迎えられるように俺
頑張るからさ、昼休みは好きに使わせてくれないかな・・・?」
解決方法はまだ見つからない。
それどころか、事態は悪化するばかりだ。
だけどこれ以上のすれ違いはまずい。
ここで食い止めなければ・・・ゴスペラーズは消えてしまう。
それを防ぐためには、早く何とかしないと。
そんな思いから、俺はテツに向かって頭を下げた。
「お願い・・・」
「安尾さん・・・」
「頼む・・・このとおりだ・・・」
「・・・わかりました。あの、放課後は、」
「もちろん・・・参加させてもらうから・・・」
「ほっ、よかった〜!じゃ、俺たち音楽室で先に始めてるんで、仕事終わったら来てください。待ってます。」
「ん、わかった。」
「じゃ、また後で!」
テツは、ホッとした様子で事務室から走り去った。
テツの方はこれでひとまずOKということにして・・・気がかりなのは黒ぽんの方だ。
俺はトイレに席を立つフリをして事務室を出て、美術室へ向かった。