「でね、安尾さんに歌ってもらいたいのがぁ〜・・・」
早速練習に突入。
俺はテクニックのことには全く口出しせず、テツの指示どおり歌うことにした。
「おお、さすが!飲み込み早いな〜!」
そりゃあ、まぁ、ね、プロだから。
プロだけど、褒められると悪い気はしないもんなんだよね。
「じゃ、1分休憩〜。」
「俺トイレ行ってくる。」
「1分だぞ。それ超えたらアウトな。」
「うっせ!」
「村上、鬼すぎるってそれ〜!」
楽しそうに笑う3人。
俺は輪から離れ窓際に歩み寄り、窓から身を乗り出す。
カバンを肩にかけ、校舎を後にする生徒たちの姿が小さく見える。
そうだよな、部活終わる時間だよな、なんて思い、今度は周りの特殊教室の様子を窺う。
あ、黒ぽん!
美術室の窓辺に座り、窓から見える景色を描いている。
「く・・・」
「ただいま〜。」
「は〜い、休憩終了〜。練習始めっぞ〜。安尾さんも、早く。」
「あ・・・あ、うん・・・」
黒ぽんに声をかけようと思ったのに、すっかりタイミングを失ってしまった。
俺は仕方なく、窓の外を気にしながら輪に戻っていった。
「おしゃ、初日にしてはなかなかいいんじゃない?」
「じゃあ今日はこの辺で終わるとするか。」
「ハラも減ったしな〜。」
今日の練習が終わった。
歌詩が書かれた紙をトントンと整えていると、テツがこっちにやってきた。
「安尾さん、ありがとうございました。」
「いや、俺は別に・・・」
「4人揃って、やっとカタチが見えてきて・・・俺、うれしいです。」
「そ、っか・・・」
「また明日もお願いしますね。」
「・・・うん、わかった・・・あ、戸締りは俺がやっとくよ。」
「ホントですか。ではまた明日。」
礼儀正しくお辞儀したテツは、浜野くん・平井くんとともに音楽室を出て行った。
俺は大きくため息をつき、消灯と戸締りをきちんとしてから美術室へ向かった。
美術室はすでに真っ暗で誰もいなかった。
「黒ぽん、帰っちゃったか・・・」