「・・・わかった。ごめん・・・」
「じゃ、もう1回・・・」
俺は覚悟を決めて、テツが歌ったとおりのメロディを歌い切った。
歌い終わった途端、テツは難しい表情から一転、パァッと笑顔を浮かべ、俺の手を握った。
「すごいですよ安尾さん!一緒に歌いましょう!お願いします!」
こんなに必死にお願いされたら、断れないよ・・・こんなに歌に対する情熱を見せられたら・・・
「わかった・・・わかったよ・・・」
断れるワケ、ないじゃないか・・・
「ホントですか?!やったぁ〜!!」
「そのかわり、」
ガッツポーズをして喜ぶテツを制止して、俺は条件を突きつけた。
「俺よりもふさわしいメンバーが現れるまでだよ。きっと・・・俺よりもいい人材がいるから、君の近くに。」
「・・・何だかよくわかんないけど・・・わかった、それでいいよ。他に見つからなかったら、本番までしっかりお願いしますよ。」
「うん・・・」
俺は・・・テツの目を見て返事できなかった。
なんでこうもうまくいかないんだろう。
すぐそこにホントのメンバーがいるのに。
もどかしくて仕方がない。自分の非力さにも泣きそうになる。
「よっしゃ〜、じゃあ早速練習しなきゃダメですよね〜。どうしよっかな〜。・・・安尾さんは仕事は何時まで?」
「・・・ん?・・・ああ、定時は5時だけど・・・」
「わかった!じゃあその後少し時間くださいね!・・・じゃ、俺、部活行ってきますね!」
「あっ、俺も・・・仕事戻るわ・・・」
「は〜い!じゃ、また後で!」
テツはカラダいっぱいで喜びを表現しながら、階段を駆け下りていった。
「で、さっきの彼はどうなりました?」
事務室に戻って早々、みんなにいい笑顔で出迎えられる。
「オーディション、されました・・・」
「ほぉ。それで?」
事務室長・・・目ぇキラキラさせちゃってるし・・・
「・・・合格、って言われちゃいました・・・はは・・・」
「そうですか。じゃあ頑張ってください。」
「じっ、事務室長〜!頑張るったって・・・」
「いいじゃないですか。手伝ってあげれば。仕事に差し支えがなければ、問題はありませんよ?」
問題あるのは別の部分なんですってば!
ゴスペラーズ存亡の危機なんですってば!
・・・口が裂けても言えないけど・・・。