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【4.一難去って】

 

事務室に戻った俺は事務室長に任務終了の報告をした。

「ご苦労さまでした。引き続き業務をお願いします。」
「はいっ。」

次に与えられた仕事は計算だ。
電卓を使って、数十段にも渡って印字された金額を延々金額を電卓で足していくのみ。

これってExcelあれば一瞬なんだろうけれど、あいにくこの時代にExcelなんてない。

電卓の「+」を押したつもりが変なボタンを押し、小数点がついたトンでもない金額になる。
数字を押し間違えて、何度も初めからやり直す。
計算ミスがないか検算したら、検算するたびに答えが違う。

「あれ?また合わない〜・・・」

ああでもない、こうでもない、と言いながら苦戦していたら、隣の事務員さんが声をかけてきた。

「あの・・・」
「はい?」
「数字の押し間違えは『矢印(→)キー』で戻りますし、『Cキー』で直前に入れた数値を消すこともできるんですよ。」
「えぁっ?!そ、そうなんですか!?」

その他、『M+』・『M−』なんかのメモリ機能も教えてもらった。
このボタンを使ったら総合計とかも出せるなんて、日常生活で電卓なんてほとんど使わないから全く知らなかった。
電卓って結構賢いんだな。

隣の事務員さんに教えてもらったテクと、慣れてきた指で、やっとうまく計算できるようになった。
与えられた仕事は、何とか業務時間内ギリギリに終わらせることができた。

「すいません、手こずっちゃって・・・」
「いえいえ。今日から手伝ってくださってるんで、助かってますよ。」

他の事務員さんが片付けして職場を後にする中、俺は事務室長のデスクへと向かった。

「あのぅ・・・」
「はい?何でしょう?」
「ここの学校ってね、宿直室、とか・・・ないんです、かね・・・?」
「宿直室・・・?あるにはありますよ。・・・どうして?」
「いやっ、あのぅっ、何て言うか、ちょっと気になって。事務員さんが交替で宿直したりとかそういうの、ないのかな〜と思って。」
「私がこの仕事に就いた頃はありましたけどね、今はそういう業務はなくなりました。
警備会社と契約してましてね、センサーとかもついてますので宿直する必要はなくなりましたよ。」
「へぇ〜・・・そうなんですかぁ〜・・・」
「それが何か・・・?」
「えっと、あの〜、何と言うかっ・・・そういうの、昔憧れてたんでね、夜中の学校を懐中電灯を持って見回り!とか・・・」
「・・・もしかして、宿直できると思ってこの仕事受けられたとか・・・?」
「あ・・・あはっ・・・」

もうそういうことにしとこう・・・恥はもう散々かいた後だし。


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