「店・・・あ、俺が勤めてる店先で女が待っててさ、誘ってきたからそれに乗っかったんだけど、それがどっかの組長の嫁さんでさ〜、ヤクザに追われて殺されかけてんだよね〜、マジで。」
俺がこれまでの経緯を説明すると、初めて男の眉間に皺が寄った。
「あなたは修道院というものがどういうものかわかってらっしゃらないようですね。
ここは神に一生を捧げる者が集まる場所です。
信者の方々が神学の勉強をきっちり受けたうえで、やっと足を踏み入れることができる世界なのです。
あなたのように欲望のままに生きている方には、ここの生活は勤まりません。」
「そこを何とか!頼むよ!お前宗教家だろうが!殺されそうな人間見捨てるって言うのかよ!!」
男の胸倉を咄嗟に掴んでしまった俺の手を、男がそっと払い除けた。
「・・・わかりました。その代わりに、守っていただきたいことがいくつかあります。
その口の聞き方・・・私だけでなく、他の者に対しても、今のような乱暴な言葉遣いは今後一切しないでください。
それと、ここの厳しい規則も守ってください。他の者の生活を乱すようなこともしないように。」
「あぁ・・・あ、いや・・・はい、わかりました・・・」
「最後にもう一度確認します。あなたは今後・・・いや、一生ここから出られなくなります。それでもいいのですね?」
「それでもいい!死ぬよりマシだ!・・・って、あ、すいません・・・お願いします!ここに置いてください!」
「よろしいでしょう・・・では早速あなたをここへ迎える準備をしましょう。」
コンコン、とノックの音がして、横澤Pファッションの男が「どうぞ。」と声をかける。
「失礼します。」
そう言いながら入ってきたのは、俺の世話を紹介してくれた3人の男だった。
「今日から彼がこの修道院の仲間になりました。最初はわからないことがあると思うので、みなさん手助けしてあげてください。」
「え?そうなの?」
「ようこそ☆」
「よろしく。」
3人は司教からの紹介に、それぞれ違った言葉を発した。
横澤P風が一歩前に出て、俺に右手を差し出した。
「改めまして。私はこの修道院で司教をしているヨハネです。よろしく。」
「ぶっ!・・・ヨハネって!めちゃめちゃ日本人じゃん!」
「・・・ここでは皆 洗礼名を使っています。」
司教にジロリと睨まれ、思わず「すいません・・・」と謝りながら握手をした。
司教は、食事を運んでくれたちっこいヤツを手のひらで指し示した。
「彼はルカ。この修道院の食事関係を一任しています。」
「はじめまして〜。料理、どうだった?」
「ああ、うまかったよ。」
「よかった〜。これからもよろしくね。」
次に、廊下の雑巾がけをしていたデカいヤツを指し示す。
「彼はユリエル。ここの農作物の管理を中心にやってもらってます。」
「力仕事なんかもありますけど、すぐに慣れると思うんで心配しないでくださいね。」
「力には結構自信ある方だと思うぜ?」
「それは心強い!よろしくお願いしますね。」
「こちらこそ。」
そして最後に、俺に付き添ってくれていたもうひとりのちっこいヤツ。
「彼はレオ。彼は販売用のクッキーやケーキ、ジャムやバターなどの担当です。」
「昨日ルカさんが持って行ってくれたパンも俺が焼いたんだよ。」
「へぇ〜、あのパンを?あれもうまかったよ。」
「でしょでしょ?今度作り方レクチャーしますね☆」
「いや、台所とか立ったことないんだけどさ・・・」
「大丈夫大丈夫!僕にまかせといてください!」
この修道院の主要メンバーと思われる4人の挨拶が済み、早速この修道院に入る手続きがなされた。
無宗教だったが洗礼を受け、見事(?)「テトス」なるクリスチャンネームもいただいた。
ここにいるヤツら・・・もとい、修道士たちは修道服を自分で作っているらしい。
俺は急に入ることになったから作る暇がない。
なので、自分のを作るまではユリエルの修道服を借りることになった。