ぐるるるるぅ〜。
「・・・あ。」
「お兄さん、おなか空いてんの?」
「あぁ、1日半以上か?何も食ってねぇもん。」
「え、そんなに?!なんで?!」
「ちょっとのっぴきならない事情があってな・・・金、一銭も持ってない。」
「ふぅん・・・わかった。待ってて。」
そう言うと、ヘンテコな服(名称不明)を着た男は、部屋から出て行った。
額に置かれた濡れタオルを掴んで上半身を起こす。
ベッドサイドにあった洗面器に濡れタオルを放り込んで、周りを見渡した。
古いベッドがひとつだけ置かれた狭くて質素な部屋。
古めかしい十字架が壁に飾られていて、棚には茶色く日焼けした年代モノの分厚い聖書が鎮座している。
縦長の細い窓の向こうはネオン街。
ガラスの向こうに取りつけられた金属製の格子が、俗世間との隔たりを感じた。
しばし格子の向こう側に広がる夜の街並を眺めていると、ゴトゴト、ゴトゴト、という何かの物音が耳に入ってきた。
音はこの部屋のドアの向こう側から聞こえてくる。
「なんだ・・・?」
ドアをそっと開けると、さっき対応した男とは別の、けれど服装と背格好は変わらない男が、料理を乗せた大きなトレイを両手で持って立っていた。
「あっ、開いた〜。よかったぁ〜。両手塞がってたから開けることもノックもできなくてさぁ〜、どうやって開けようか考えてたんだよ〜。」
「・・・声で呼べばよくね?」
「あ、ホントだねぇ〜。失礼しまぁ〜す。」
男は、俺の言葉をツッコミだと察知することもなく、たどたどしい様子でトレイを運び、ベッドの上に置いた。
「置くとこないからここに置くね。じゃ。」
「あ、ちょっと待って。」
部屋を出て行こうとする男に声をかける。
「ん?何?」
「・・・この得体の知れない食い物、何?」
男は「・・・あ〜!」と納得したように声を上げた。
「ごめんねぇ〜、ここの修道院で出る食事は全部自給自足なんだよね〜。
肉とか魚とか使わないんだよ。野菜中心だから見映え悪いけど、悪くないと思うよ?だから食べてみて。ね?」
「いや、そういうことじゃなくて・・・」
男は一気に言い切ると、俺の返事も聞かずに部屋からさっさと出て行ってしまった。
「何て料理か知りたかったのに・・・あいつマイペースすぎだな・・・ま、いいや。食お食お。」
ベッドに置かれた料理を改めて見る。
手焼きと思われる不格好なカタチのパンが2個とバター、どうやら何かの豆を使ったと思われるスープのような煮物のような・・・
正直、ビジュアル的に食うのが恐いシロモノ・・・けど空腹には勝てない。
空腹でなければ決して手をつけないであろうその料理に、躊躇うことなく手を伸ばした。
「・・・あ、パンうめぇ・・・」
歯応えがあって少ししっとりとした食感の生地は、ところどころ焦げている。石釜で焼いてるのだろうか。
小麦本来の風味と、バターの程よい塩分が合わさって絶妙の味わいである。
「で、何だよこの豆料理はよ〜・・・」
備えつけられたスプーンで恐る恐る掬って口へ運ぶ。
「か、カレー?!・・・まだ熱あるっていうのにカレーってお前!ってか、こういうとこでカレーって食うもんなのか・・・?」
とイチャモンをつけてはみたが、そのカレーは思った以上に胃にやさしくて食いやすく、あっという間に平らげてしまった。
トレイを部屋の隅へ片付けた後、自分でタオルを絞って額に乗せて再びベッドに横になった。