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大興奮の中、客が帰ってゆく。
その姿を俺は見送った。

ふと、客の会話が俺の耳に飛び込んできた。

「へぇ、そんな遠くの街からわざわざ〜・・・」
「ええ、そうなんです。ここの修道院の聖歌隊の映像を動画サイトで見て是非ナマで見たいと思いましてね。
飛行機乗って来ちゃいました。」

え・・・動画サイト・・・?

たしかに修道士が暮らす棟などは一般の人々の立ち入りを禁止しているが、聖堂は一般の人々に開放されているし、撮影禁止などにもなっていない。
誰かが聖歌隊の歌っているのをビデオで録画して、動画サイトにアップしていてもおかしくない。

世界中の誰もが見れる動画サイト、ということは・・・
俺がここに潜伏してるってことが組のヤツらの耳に入るのも時間の問題だ・・・。

せっかくここでの生活にも慣れ、聖歌隊の讃美歌も完成したってのに・・・俺がここにいると他の修道士たちに迷惑をかけてしまう。
迷惑どころか、ヘタしたら俺以外のヤツらの命だって危うい・・・

俺は慌てて、自室に戻った。
震える指先で修道服を脱ぎ、あの日ここに辿り着いた時に来ていた変なTシャツとメガネと帽子をかぶり、部屋を抜け出した。

他のヤツらに見つからないように柱の陰に隠れながら、出口に向かって走っていく。
そしてようやく俗世間を隔てる最後の砦、あの重い木製の扉の取っ手に手をかけた。

「どこへ行くのです?」

心臓が跳ね上がる。
振り返ると、司教が立っていた。

「どこへ行くのですか?」

司教の力強い視線に、一歩たりとも動けなくなってしまった。

「俺たちの讃美歌・・・動画サイトに載っちまったんだよ・・・そのうちここにもヤクザが来ちまう・・・。
俺っ・・・ここのみんなを危険に曝すようなこと、したくないんだよ・・・。
自分で蒔いた種だ・・・俺ひとりならどうなってもいい・・・他のみんなに被害が及ばないうちにここを出ていく!」
「待ちなさいっ!!」

司教がこんなに声を荒げたのを見たのは初めてだ。
俺はそのことに大きく動揺し、その場に座り込んだ。

「・・・あなたを受け入れた段階で、ある程度の覚悟はできています。
それに・・・神を信じる者を、神はきっと守ってくださいます。」

「そうだよ。心配しなくても大丈夫。悪いヤツにはいずれ天罰が下るよ。」
司教の後ろから、ルカがひょっこり現れた。

「ルカ・・・」

ルカに続いて、ユリエルとレオもやってきた。

「テトスさん、水臭いじゃないですか。俺たちに何も言わずに去ろうなんて。」
「そうだよ。まだまだ歌ってない讃美歌いっぱいあるのにぃ。勝手に出て行ったら承知しないからね〜?!」
「ユリエル・・・レオ・・・」

「そういうことです。・・・あなたに神のご加護がありますように。」
司教は静かに笑って、俺に手を差し伸べた。

俺はその手を掴み・・・立ち上がった。


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