また日曜がやってきた。
聖堂に入る直前、俺はヘタクソくんに
ある頼みごとを耳打ちした。
ヘタクソくんは「わかりました。」と言い、俺はそれに対し「サンキューな。」と礼を言った。
いつものように司教の難解な話があり、俺は立ち上がった。
「それでは讃美歌斉唱を行います。」
いつもはヘタクソくんのセリフなのに、いきなり俺がそれを言ったものだから、司教を始め聖歌隊の連中も目を白黒している。
俺は着席していた司教に歩み寄り、目の前に立った。
「手伝ってください。お願いします。」
聖堂の後ろの方にまで聞こえる大きな声で司教に言い、手に持っていた楽譜を差し出す。
司教は、俺が楽譜に赤ペンで書き込んだ“手伝ってほしい箇所”をチラリと見て、目を見開いた。
「お願いします。」
俺は楽譜を差し出したまま、今度は深々と頭を下げた。
静まり返る聖堂。
皆の視線が、司教の動向の一点に集中している。
司教はしばし考えた後、楽譜を受け取り、立ち上がった。
「ありがとうございます。」
司教はパイプオルガンへと向かい、椅子に腰掛けた。
「ほら、お前らも行くぞ?」
座ったまま固まっている聖歌隊に声をかけ、壇上に整列させる。
そして簡単に変更点を説明した。
「わかったな?」
俺の問いに聖歌隊は静かに頷いた。
確認事項も済み、俺は司教に合図を送る。
パイプオルガンから流れ出た音色は、今までと同じ楽器から演奏されたとは思えないほどの滑らかさで、一般参列者のうっとりとしたため息が漏れ聞こえてくる。
そのメロディに聖歌隊のハーモニーが重なり、溶け合い、ひとつになる。
ルカと、ユリエルと、レオと、ついでに俺のソロパートが順に終わる。
普通ならここで終わりなのだが、続いて司教がこの讃美歌の英語詞を歌い始めた。
そう、俺が菜園脇で聞いた、あの曲。
司教の英語詞とパイプオルガンの音色、聖歌隊のコーラスが折り重なる。
各自歌いながらも、これまで以上の完成度であることは強く感じている。
その感動がまた曲に入り込み、ますます研ぎ澄まされていく。
司教が歌い終わり、パイプオルガンの後奏が止むと、聖堂内が大きな拍手に包まれた。
そしてそれはスタンディングオベーションにまで発展した。
「すごい・・・」
隣で呟いたレオの声も掻き消されるほどだ。
俺は、パイプオルガンの前で立ち上がった司教にもう一度頭を下げた。
司教は照れくさそうに小さく笑顔を浮かべた。