「はい、やめぃ。」
「・・・。」
「お前なぁ、」
バチーン、とユリエルの背中を叩いてやる。
「いった!!いきなり何すんだアンタはっ!!」
「何だよ、お前声出るじゃねぇか。」
「あ・・・」
「デッカいズウタイしてんのにハートはチキンだな。」
「ひどいな!人をニワトリ呼ばわりしないでください!」
「チキンじゃねぇって言うんなら、今みたいな感じの大きな声で歌ってみろよ。お前のパートはコレ。よく聞け。」
ユリエルは憮然とした表情で明後日を向いたまま。
ちゃんと聞いてんのかよ?こいつ。
「・・・以上。わかったか?」
「まぁ・・・なんとなく・・・」
「じゃ、歌え。」
コホンと咳払いして歌うユリエルの声はさっきとは打って変わって、すごく澄んでいて聖堂に溶け込んでいくようだ。
「お前、うまいじゃん。声も綺麗だし、自信持てよ。」
「はぁ・・・ありがとう、ございます・・・。」
「じゃあ、レオ。」
「は〜い!」
元気に返事して歌い始めたレオは・・・なんつ〜か、一本調子。
いや、みんな音痴のジジイのせいで皆
音程はないに等しいんだけど、こいつは強弱すらもない。
ずっと“強”のままだ。
「はい、やめやめ。」
「どう?」
「どうもクソもねぇよ。お前強弱なさすぎ!お前の歌声はモールス信号かっ!?」
「え〜!ひどい!」
「お前さ、しゃべる時だって強弱つけるだろ?
例えば信者にキリストの素晴らしさを解く時、ボリュームを落としてゆっくり丁寧に話すだろ?
『イエスはー、言いましたー。』って調子で言っても有難味ないだろ?それと一緒だ。
歌詞の内容をただ“言い伝える”だけでなくて、感情的な部分も“表現する”ようにしろ。」
「わかった・・・。」
「じゃあお前のパートはこれ。」
俺が例を示すのを、レオは耳だけでなく目も使って“聞いている”。
「やわらかな歌詞の時は力を抜け。わかるな?」
「うん、やってみる・・・」
レオは、力を抜くように肩を小さく2回下に下げて、歌い出した。
歌詞に気持ちがグッと詰まって、やさしい歌声になった。
神を慈しむ心が歌詞にうまく“乗っている”。
「・・・どう?」
「完璧。お前、最高。」
「うんうん、すごくよかったよ〜。」
「レオ、すごいな。」
「ホント?!やったぁっ!」
ルカとユリエルの感心した様子を見て、レオも大喜びだ。