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というワケで、なんとか司教に頼み込んで、聖歌隊の教育係の座をゲットした。

たしかに、聞くに堪えないあの聖歌隊を立て直すためでもあるのだが・・・
実のところ、労働と宗教ばっかで息が詰まりそうだったから、何としてでも息抜きの時間を確保したかったのだ。
しめしめ、うまくいったぜ。

今日から早速活動開始。
夕食前の30分をもらい、聖歌隊を聖堂へ集めた。

「へぇ、君が歌を教えてくれるんだ〜。」
集合して早々、ルカが暢気な口調で言う。

「おぅ、だってさ、お前らヘタすぎるからさ。」
「え?ヘタなんですか・・・?」
ユリエルが困惑した表情を浮かべた。

「おいおい、気づいてなかったのかよ・・・」
「だって・・・教えてくれた段階でこれだったから、これが正解だと思ってたんだもん。ねぇ?」

レオの言葉に、周りのヤツらが一斉に頷く。

「誰だよ教えたヤツ!責任者出て来い!」
「あのねぇ、讃美歌を教えてくれたのはね、おじいちゃんの修道士さん。5年前に天に召されちゃったんだけどね。」

またもレオの言葉に周囲が激しく頷く。

「・・・わかった。責任者はいないんだな。よっしゃ、その音痴のじいさんに遠慮する必要はないワケだな。ビッシビシ行くぜ!」
俺がニヤリと笑うと、聖歌隊のメンバーの表情が一瞬にして凍りついた。

「じゃ、ルカ。歌ってみ。」
「えっ、俺ぇ?」

ルカはスゥッと息を吸い込んで大きな声で歌い始めた。

「はい、やめやめやめ!!」
「はぇ?」
「お前、声デカいからちょっとボリューム落とせ。デカけりゃいいってもんじゃないんだよ。
それと、お前は声が高いから、そのパートじゃなくて高音のパートを歌ってもらう。よ〜く聞けよ?」

俺が示す手本を、ルカはフンフンと変なリズムの採り方をしながら聞いている。
大丈夫かこいつ・・・

「・・・っと、まぁこんな感じ。」
「そんなに音程変わるんだね。」
「それはじいさんが音程取れなかっただけだっつの!じゃ、歌ってみ?」

またスゥッと息を吸い、歌うルカ。
うん、完璧。俺が見込んだとおりだな。

「よっしゃ、それでいい。その調子で歌ってくれ。わかったな?」
「ん、わかった。」
「・・・じゃあ次は、ユリエル。」
「えぇっ?!お、俺ですかぁっ?!」
「驚きすぎ。はい、どうぞ。」
「ま、まいったな・・・」

ユリエルはグァシグァシと頭を掻き、小さくコホンと咳払いをして歌い始めた。

が。

口は動いてるのに、声が出ていない。
蚊の鳴くような声だ。

ユリエルの口元に耳を持っていくと、かろうじて聞こえる。
ルカとは対照的だ。


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