「ど・・・ど、うしよう・・・これ・・・」
呆然と茶封筒を眺めている俺の横を、女子高生ふたり組が通っていく。
「あ〜!『コーリング』早く出ないかな〜!街角みち子のやつ、早く続き読みたいな!」
「私も!この前のやつ、すっごいいいとこで終わったんだよね!」
「そう、すっごく泣いちゃったぁ〜。あそこでなんであんなこと言っちゃったんだろうね?」
「私だったら、もう、すぐ『好き!』って言っちゃうけどな〜。」
「ははは!私も!・・・あんな素敵な男の人、どっかにいないかな〜・・・」
「いたらいいよね〜。絶対好きになっちゃうのに。」
「あ〜、待ち遠しいなぁ〜。発売日まで街角みち子のコミック読んで待っとこうっと!」
俺は女子高生が去った後、周りに人がいないのを確認して、封筒から慎重に原稿を取り出した。
無残にも破れた原稿。そこに描かれたヒロインに釘づけになった。
続きが気になり、原稿をめくっていく。
ヒロインが、自分の気持ちを伝えないまま、彼の元を去っていく。
彼の追う、夢のために。
長い連載のたった一部なのに、その世界に深く引き込まれていく。
これが・・・街角みち子の魅力・・・。
・・・俺、ナメてた。
たかが漫画だ、ってナメてた。
漫画なんて、活字読むのが苦手な人でも楽に読める、暇つぶし程度のお手軽なモノだと思っていた。
でもそうじゃないんだ。
女の子たちが話していた時の、あの一喜一憂する顔・・・
ひとつの漫画が、こんなに人々の心を揺さぶっている。
こんなに人々の気持ちを掴んでいる。
あの子たち以外にも待ってくれてる人がいっぱいいるんだ・・・こんなところでぼ〜っとしている暇はない。
俺は慌ててマンションに戻り、息を切らしたままインターフォンを押した。