廃刊へ向け、さらに慌ただしくなった同僚に簡単に挨拶を済ませ、簡単に自分の机を片づけた。
最後を見届けることもできず『Vol.』編集部を出た俺は、少女漫画『コーリング』編集部へ入って行った。
新しい編集部の編集長に挨拶をすると、編集長は挨拶もそこそこに仕事の指示を出してきた。
「来て早々だが、今から原稿を取りに行ってもらえないか?今日締切なんだよ。」
「あ、はい・・・」
渡されたメモには、住所と簡単に書かれた地図そして、漫画家の名前。
「『街角みち子』ってあの有名な少女漫画家の!?」
新部署着任早々、大きな仕事を与えられてしまったようだ。
早速、メモを頼りに街角みち子の自宅へ向かった。
街角みち子の作品は読んだことはない。
少女漫画自体読んだことがないのだ。漫画なんて正直興味ないし。
けどそんな俺でも「街角みち子」って名前だけは知っている。
3年ほど前、人気急上昇中だった彼女が『コーリング』で連載漫画を発表した時は、社内が大騒ぎになった。
『コーリング』は、彼女との契約と同時に売り上げが倍近くに増え、現在も安定した売り上げを見せている。
『コーリング』の売り上げが我が社の経営を支えていると言っても過言ではない。
まさに、我が社にとって『コーリング様様』、いや、『街角みち子様様』なのだ。
「・・・ん、と、ココかな〜?・・・ってデカっ!!」
目の前にそびえ立つ高級マンション。
いったいいくらぐらいするんだろ?
億ション、ってやつだな、きっと。
マンションの玄関で、メモに書かれた暗証番号を入力し、中へ入る。
「すっげ〜・・・」
きょろきょろと辺りを見渡しながら、先に進む。
エレベーターに乗って、街角みち子が待つ最上階を目指した。
エレベーターを降りたところが、すぐ玄関になっていた。
どうやらこのフロア全部が街角みち子の部屋になるらしい。
ゴクッと唾を飲み、インターホンを押した。