次の日。
出社すると編集部は妙なムードに包まれていた。
全員が集まったところで、それまで黙り込んでいた編集長が重い口を開いた。
「『Vol.』の廃刊が決まった・・・
みんなには頑張ってもらっていたのに、すまない・・・」
ざわつく部内。
それもそうだ。売り上げだって悪くなかったし、何か不祥事があったワケでもない。
なのにどうして・・・。
「廃刊まで引き続き頑張ってくれ。俺から言えるのは、それだけだ。
・・・以上だ。仕事を始めてくれ。」
編集長の掛け声を合図に、みんなのろのろと自席へ着いた。
プライベートを犠牲にしてまで頑張ってきた努力が、報われなかった。
この仕事に対する情熱はさらに冷めてしまった。
『やる気が出ない』っていう感覚を、こんなに強く感じたことはない。
俺はタバコを吸うため、編集室を出て喫煙所へと向かった。
タバコの煙を深く吸い込みため息と一緒に吐き出していると、編集長が喫煙室へ入ってきた。
「お疲れ・・・」
「お疲れ、さまです・・・」
仕事を辞めるってことを切り出そうとタバコを揉み消していたら、編集長が先に話しかけてきた。
「安岡。急ですまないけどな、今日の午後から他の部署へ移ってくれないか?」
「え・・・?」
「少女漫画の編集部だ。」
「いや、あの、でも俺っ・・・」
「お前ならできるよ。俺は・・・いや、俺だけじゃない、部の多くの人間が編集の仕事からも外されるからな。
お前には新しい部署で頑張ってもらいたい。」
普段冷静で強気な編集長が、今日は何だか小さく見える。
この仕事に多大なる情熱を注いでいた編集長が、編集の仕事を外れる・・・彼の精神的ダメージは計り知れない。
こんな時に「仕事辞めます」なんて・・・俺には言えなかった。