「・・・もう頭上げたら?」
一息に言いたいことを言い切った俺に、哲也さんが声をかけてくれた。
「哲也さん・・・?」
「そんなことで『ダメな編集者』とか言うなよ。誰にだって、辞めたくなる時ぐらいあるだろ。
俺にだってあるよ、辞めたくなる時。他の3人と違って、俺は描く才能はないし。」
「俺だって・・・」
哲也さんに続いて、雄二さんが口を開く。
「俺だって、何度辞めようと思ったか。ホントは少年漫画が描きたかったのに、そっちでは評価してもらえなかった。
少女漫画家としてヒットしたらヒットしたで、忙しくて彼女どころじゃ・・・。仕事ばかりしてる日々に嫌気が差す時もある。」
「俺も。何度もフラれたな〜。まさか彼女に『俺、ホントは街角みち子なんだ』とも言えないしさ。
彼女に『何の仕事してんの?私にも言えないの?仕事って嘘でしょ?ホントは他の娘と?!』ってさぁ。」
薫さんも悲しみが混じった笑顔で話した。
「こいつもさ、」
哲也さんが陽一くんの肩に手を乗せる。
「思春期なのに仕事で外に出る時間が少なくて・・・悪いことをしたと思ってる。」
「僕は、いいんだ。みんなで仕事するの楽しいし。恋は後でいくらでもできる。」
「何だよ陽一。お前かっこいいこと言うなぁ〜!」
「っていうか、陽一はまだ若いから!薫兄ぃとか哲也兄ぃとかの年になったら、結構キツいんだぞ??」
「雄二もそろそろキツいっつの!」
「何をぅ?!・・・よし!決めた!俺辞める!辞めるぞ!!辞めて伴侶を見つける旅に出るぞ!」
「辞めないでください!今、先生たちに辞められたら、俺っ・・・」
雄二さんの言葉に、俺は再び頭を下げ頼み込んだ。
「ははっ、冗談だ!じょ・う・だ・ん!俺たちが辞めたら君が困るように、君に辞められたら俺たちも困るんだよ。
俺たちは、君を辞めさせたいと思ってるなんて、ひとことも言ってないでしょう?」
「そういうこった。だからさ、もうちょっと頑張れ。な?
もう少し俺たちの担当やってくんねぇか?お前、気に入ったし。」
「・・・はい!」
顔を綻ばせながら返事をしている俺をよそに、陽一くんが他の3人に何やら耳打ちをしているのが見えた。
3人は俺を見てニヤニヤと笑っている。
「な、何なんですか・・・?」
この人たち、何か企んでる・・・?、と身構えた、その時。
♪Happy birthday to you〜
俺のために、4人が歌で祝ってくれた。
思いがけない誕生祝いに、気づかぬうちにうれし涙が頬を伝っていた。