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「お〜い、安岡ぁ〜?早く来ねぇと雄二のヤツがお前の分も食っちまうぞ?」
「あっ、はいっ・・・」

哲也さんに呼ばれて、俺は立ち上がってリビングに向かった。

「っ、うわっ?!」
ソファの脇に置いていた自分のカバンにつまづいて、盛大に転んでしまった。

「あいっ、たぁ〜・・・」
床で強く打った腰をさすっている間、散らばったカバンの中身を陽一くんが拾ってくれている。

「何・・・これ・・・」
陽一くんが手に持っていたのは・・・昨日俺が書いた辞表。

「あ・・・」
「何?お前辞める気なの?」
哲也さんの言葉で素に戻った俺は、陽一くんの手から辞表を奪って、ぐしゃぐしゃに丸めて土下座した。

「お、俺っ・・・!」
「ど、どうした?」
土下座したまま話し出した俺に、雄二さんが素っ頓狂な返事をする。

「俺っ、ダメな編集者なんです!・・・忙しくて、誕生日の前に必ず振られちゃって・・・誕生日、いつもひとりだったんです。
昨日も・・・誕生日だったのに振られちゃって・・・仕事で私生活を犠牲にするのがしんどくなっちゃって・・・。
仕事辞めようって思ってたんです・・・。原稿も破っちゃったし、どうしょうもないな俺、って・・・。
けど・・・さっき、女の子たちがね、先生の作品を心待ちにしてるのを見たんですよ。
女の子たちのあの表情を見た時に、編集者として先生の作品をちゃんと読者に届けるんだ、それが俺の使命だ、って思った。
俺はっ・・・ダメな編集者だけど・・・もっと読者の喜ぶ顔が見たい!俺には、もっとやらなきゃいけないことがある!
こんな中途半端なとこで辞めるなんてできない!だからっ・・・怒られたって嫌われたって、俺、先生の担当、辞めません!」


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