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「お待たせしました〜!キッチン、使わせてもらいましたよ!こっちで食べますよね?」
ソファの前にあるローテーブルに皿を並べながら作業部屋に声をかけると、雄二さんが顔を覗かせた。

「お?サンドイッチ?手作り?」
「はい!いつもちゃんとしたもの食べてないんじゃないかと思って、野菜たっぷり具だくさんですぅ。」
「ほぉ、うまそうだな。もう食っていいの?」
「はい!どうぞ☆」
「おーい。みんな食わないのか?うまそうだぞ〜?」

雄二さんの呼びかけに哲也さんと陽一くんがリビングにやってきた。

「あれ?薫さんは?」
「後で来るんじゃねぇか?おい、安岡、お前は?」
「あっ、俺も後でいいです。」
「そ。・・・さ、先に食おうぜ。」
「いただきます。」「いただきマンモス。」
「のりPかよ。♪男の子〜にな〜りたいのよワ〜タシ〜、か。」
「哲也兄ぃ、ツッコミが長いよ。」

俺は、楽しそうな?3人をリビングに残し、作業部屋に向かった。

「薫さん。」
「ん〜?」
「さっきは・・・ありがとうございました。」
「ん?いいよ、気にしなくて。みんな毎日おんなじような日々を繰り返してるからさ、たまには刺激与えないと、つまんないでしょ。」

薫さんは原稿から目を離さないまま、ハハハと笑った後、「けど〜・・・」と言葉を続ける。

「・・・何でしょう・・・?」
「哲也が怒った気持ちもわかる。」
「あ・・・」
「漫画の編集部の仕事は?」
「これが、初めてです・・・。それまではファッション誌の担当で・・・。」
「そうなんだ。たぶん文章の方の原稿なら、最近はパソコンで書いてる人がほとんどでしょ?
万が一、原稿が破れてもデータ残してあるだろうから、もう一度プリントアウトすればいいだけの話だろうし。
仮に手書きの原稿であったとしても、最終的に何が書いてあるかがわかったら、そこから文字に起こせるから支障はないんだろうけど・・・。
漫画の原稿はそうはいかない。俺たちの仕事は全部紙ベースでやってる。
この仕事始めた当初からの俺たちのこだわりでさ。パソコンに頼らず、こうやって1枚1枚、4人で力を合わせて手書きで作ってるんだ。
自分で言うのも何だけど、絶妙のコンビネーションでさ、俺たちにしかできないって思ってる。
他の漫画家にはマネできないし、誰にも負けないって自信もある。だからこそ、大事に扱ってほしいんだ。」
「・・・すいませんっ・・・」
「ううん、わかってくれたみたいだから、いいよ。・・・さ、俺もキリのいいとこまで済んだし、安岡くんも食べよう?」
「あ、・・・はい、すいません・・・」

薫さんが作業部屋を出て行った後も、しばらく下げた頭を上げれなかった。
なんてことしてしまったんだろう。
この人たちが頑張って作った原稿を破ってしまって・・・
しかも破った理由が、ぼ〜っとしてたから、仕事を辞めることを考えてたから、だなんてひどすぎる、俺・・・。


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