「あ〜・・・腹減ってきたぞ、薫兄ぃ。思ったように作業が進まん。」
雄二さんが右手で主人公を描きながら、左手でお腹をさすっている。
「じゃあ・・・安岡くん。何か買ってきてくれる?これ、財布ね。」
薫さんが引き出しを開けて財布を取り出し、俺の方へ差し出した。
「はい!・・・って、何買ってきましょうか?」
「何でもいいよ。テンヤモノでもいいし、惣菜とか弁当みたいなものでもいいし、料理できるんなら作ってくれてもいいよ。」
「とにかく早く食えるもんがいいな。間違ってもカニとか買ってくるなよ?」
「わ、わかってますよ、雄二さんっ。・・・では、行ってきます!」
俺は財布を手にマンションを飛び出した。
日はすっかり沈んで、辺りは真っ暗だ。
コンビニに向かう道中、携帯から編集長に電話をかける。
『どうした?原稿はまだか?』
「す、すいません編集長・・・私の手違いで原稿をダメにしてしまいまして・・・。
今、先生にあらためて描いていただいているところです・・・」
『原稿をダメに、って・・・お前、今までどんな仕事してきたんだ!?』
「・・・すいません・・・あの・・・」
“責任をとります。辞めます。”って言おうとした時。
『それにしても、あの街角みち子がもう1回描いてくれる気になったとはな・・・』
「へ・・・?」
『街角みち子は気難しくて有名なんだ。
昔、他社で同じようにミスした編集者がいたそうだが、その時は連載打ち切りだったそうだ。
・・・お前、さすが『Vol.』の編集長が推してただけあるな。
よし、原稿はギリギリまで待ってやる。今度はちゃんと持って帰って来いよ。』
「・・・はい!」
俺は、コンビニまで走った。
急いでる、ってのもあったけど、なんだかとっても走りたい気分、だったから。