薫さんに、さっき哲也さんが出入りしていた部屋に案内された。
部屋の中に机と椅子は4つずつ。
そこに薫さん、哲也さん、雄二さん、陽一くんが座って、作業にとりかかっている。
「あ、あの・・・」
「何?」
ペンを動かす手を休めず、薫さんが返事をする。
「街角、みち子先生は・・・」
「ああ。見てわからない?」
「え?」
「俺たち4人で、『街角みち子』。」
「・・・・・・・・・えぇ〜〜〜〜っっっ!!?」
「うっさいなアンタ!静かにしなさいよ!」
あまりの衝撃に思わず叫んでしまい、雄二さんに叱られてしまった。
「あっ、す、すいません・・・!」
「『街角みち子』が俺たちだってこと、秘密にしててね。
男がこんなの描いてるって知られちゃったら、読者が興味本位でしか作品を見てくれなくなるから。」
「はい・・・わかりました・・・」
「俺が長男の薫。背景を担当してる。
で、次男の哲也がマネージャー担当。各出版社との契約とかを中心にやってくれてる。
こう見えて結構頼りになるんだよ?」
「おい薫兄ぃ、『こう見えて』って何だよ・・・」
「で、三男の雄二が人物を描いてる。見た目と違って可愛い絵描くだろ?」
「『見た目と違って』っていうのが余計です!」
「四男の陽一がシナリオ担当。若いのに女心がわかるらしいよ?」
「わかるっていうか・・・結果的に読者にウケただけなんだけどね。」
「でね、忙しい時は、こんな感じで哲也や陽一にも描くのを手伝ってもらうんだ。
・・・はい、安岡くん。これ、鉛筆の下書き、消しゴムで消してくれる?」
薫さんから原稿と消しゴムを受け取った俺は、立ったまま机の空いたスペースで鉛筆書きを消した。
哲也さんが部屋の隅から折りたたみ椅子を持ってきてくれた。
「ほらよ。」
「あ、ありがとうございます☆」
哲也さんって恐い人なのかと思ってたけど、意外といい人かもしれない。
「そ〜っと。そ〜っと。」
と言いながら下書きを消していると、陽一くんに笑われた。
クールに見えて意外と人懐っこい性格のようだ。