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第8話
強力な援軍(1)

 

或る晴れた日曜の朝。

村上家のキッチンでは、ムララが皿洗いの真っ最中。
鼻歌を交えながらスポンジを持つ手をセッセと動かしている。

『♪あ〜な〜たに〜伝えた〜いの〜、この胸の〜と〜きめき〜』

以前は哲也と陽一が交代制で家事をこなしていたが、ムララがこの家に来てからはすっかり解放された。
今も、哲也は庭でリフティング、陽一はリビングで怪奇現象の本を読んでいる。

「軍曹、手伝おうか?」

読書に一段落つけた陽一が本を傍らに置き、ムララに声をかける。
内心『だりぃな』と思いながら作業を続けていたムララは、陽一の言葉に笑顔を浮かべて振り返った。

『おぅ、マジか?!じゃあ俺が洗ったヤツすすい、で・・・』

弾んでいた声が途中で途絶えた原因は、陽一の後ろにある大きな窓の向こう側。
庭にいる哲也がものすンごい鋭い視線を向けていからである。

『・・・いや、あ・・・だ、大丈夫、もうすぐ終わるから・・・あは、あはははは・・・』

ムララは引きつった笑顔をシンクの方に戻し、皿洗いを再開した。

それを確認した哲也が深くうなずき、サッカーボールを小さく蹴り上げる。
左右のヒザでトントンとリズムよくリフティングしていたが、突如隣家との境にあるブロック塀に向かって強烈なボレーを打ち込んだ。

ばいんっ、という大きな衝撃音が響き、陽一が庭に飛び出してくる。

「どっ、どうしたの急に・・・!」
「いや?な〜んか、誰かに見られてるような視線を感じたからさぁ、一応“威嚇射撃”ってヤツ?」
「ビックリしたよ、もう・・・」

哲也は、「悪ぃ悪ぃ。」と悪びれる様子なく呟き、再びリフティングを始めた。


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