帰宅後、陽一が掃除機をかけていると、哲也がスーパーのビニール袋を提げて帰ってきた。
「ただいま〜。」
「あっ、おかえり〜。」
「晩メシ、ちょっと待ってろよ?ちょちょっと作るから。」
「あわてなくていいよ、空でも見ながら待ってるから。」
苗字が同じということですでにお気づきの方もいらっしゃるかもしれないが、このふたり、実は兄弟である。
母はおらず、父は出版社で漫画誌の編集部に勤めていて多忙で、滅多と家には帰ってこない。
そんなワケで、家事の全般は彼らがこなしている。
エラいなぁ。感心だなぁ。
そんなこんなで今日も父は不在。
ふたりきりの夕食である。
「あ、今日のつけ麺しょっぺ〜わ。悪ぃ・・・」
「ううん。別に?おいしいよ?」
ふたりとも料理はできる方ではないので、出来不出来は特に問題ないようです・・・。
食事と後片づけを済ませたふたりは、いつものようにリビングに置かれたテレビの前に陣取った。
陽一がリモコンのスイッチを押し、「アンビリーバボー」の2時間スペシャル「超衝撃映像!宇宙人は存在する?!」にチャンネルを合わせる。
「あ?何、お前、こんなん見んの?」
「当たり前でしょ。2週間前に予告見てからずっと楽しみにしてたんだから。」
「ダメだっつの!今日はサッカー日本代表の大事な一戦があるってのに、こんなうさんくさい番組見てる場合じゃねぇだろ!」
哲也がリモコンを奪い、サッカー中継にチャンネルを変えた。
「頑張れニッポン!頑張れ角澤!」
「日本代表の応援なんかしてる場合じゃないでしょ!宇宙人が地球に降りてきてる証拠がいっぱい残ってるっていうのに!見過ごしてる場合じゃないよ?!」
リモコンを取って取られての攻防の末、取っ組み合いのケンカにまで発展してしまった。
ジャンケンでもして負けた方が録画でガマン、とかでいいと思うんですけど・・・リアルタイムで見ることにこだわるふたりに、そんな発想は出てこないようですね・・・。
「今日日(きょうび)『サッカー見ない』って・・・バカじゃねぇの?!」
「バカじゃないよ!兄ちゃんよりは賢いし!」
「う、うるせぇ〜っ!!宇宙人なんかいるワケないだろ!」
「いる!」
「いねぇっつ〜の!」
哲也がリモコンを持つ手を振り上げた拍子に、リモコンが手からすっぽ抜けてしまった。
「あっ・・・」
ガツン!
リモコンは部屋の壁に当たり、床に落下した。
そして。
ヒラヒラヒラと壁の表面が布状に剥がれ落ち、その向こう側に隠れていた得体の知れない緑色の生物が1匹、パタリと倒れ動かなくなった。