青空の下、並盛町に悲鳴Gridoは流れる。
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 あぁ、死んだな。と、ツナは思った。



 少なくとも、雲雀の暴力の洗礼を受けるのだから、半死半生なら儲け物。最悪の場合、本気で三途の川の向う側へ移住することとなるだろう。
 とことんへたれなツナは、痛いのは嫌だ。どうせなら気絶している間に全部終わってくれ、と願いながら意識を手放そうとした。
 だが。



「情けない姿ですねぇ、沢田綱吉」



 聞き慣れた声と、それに伴いゾクッと背中を駆け抜ける悪寒にツナは手放しかけた意識を再び取り戻す。


「む、骸……」


 いつの間にやってきていたのだろう。
 ツナは後ろから抱きかかえられる形で、六道骸の腕の中にいた。
 驚きに見開いた目で骸を見上げれば、白い目が見下ろし返す。


「その体はいつか僕がいただくんです。こんな所で余計な怪我など負わないでいただきたいですね」
 素っ気なく、かつあまりありがたくない注意を受けるが、骸が助けてくれたことに代わりはない。
「ありがとう」と素直に礼を言う。「だから君のためではない」、と骸はそっぽを向いた。
 その姿にツナは唇をほんの少し綻ばせる。


 相変わらず骸のことは恐ろしいが、最近では慣れてもきている。
 以前のように側にいられるだけで肺を直接鷲掴みされるような恐怖を感じなくなってきていた。
 きっと、指輪争奪戦の時超直感によって垣間見た、本人すら自覚していない不器用な優しさが胸に残っているせいだろう。
 思わず微笑んでいたツナの姿に気がついたか、骸の表情がさらに無愛想になってゆく。


 のと同時に、真冬の八甲田山さながらの冷気が近くから漂い始めた。


「……いつまでそうしているんだい?」
(あ――――ッ! そうだよ、雲雀さん――――!!)


 ツナは胸中で声も嗄れよとばかりに絶叫する。
 すっかり……というわけではないが、それでもほんのちょっぴり存在を忘れていた雲雀が、トンファーを構えこちらを睨み付けていた。
 いつも何かを睨み付けているような険のある目は、今や視線だけで全人類を抹殺できそうなくらいになっている。


 ツナは恐ろしさから骸の背後に回り、腰にしがみついた。
 一瞬体を硬直させた骸であったが、ツナを引きはがすことはせずなぜか目を細めてどこか愉快気に含み笑った。
「おやおや、ずいぶん意気地のない。僕を倒した時のあの勇猛さはどこへ行きました」


 そんな元からあるかなしかの微妙なもの、雲雀の視線に晒された途端宇宙の彼方へすっ飛んでいった。
 取り戻すには、ロケットでも用意して広い星の海へと飛び出さねばなるまい。
 ツナはそれほど大変な思いをしてまで取り戻したいとは思わない。どうせすぐにまた(雲雀だけでなく獄寺やリボーン関連で)すっ飛んでいくに違いないからだ。
 そんな思いを、ツナは骸の腰に回した手に込める。


 雲雀の視線が、とたん全人類抹殺から地球消滅までレベルアップする。
 ツナの悲鳴も、首を絞められた鶏から恐怖映画の女優さながらの甲高さへとレベルアップした。


「君、いい加減"それ"放しなよ」


 苛立った口調でヒバリはツナを顎で指す。ツナはその言葉にますます骸の腰に回した手の力を強める。
 対する骸はちらりとツナに目を向けたが、すぐにヒバリの方を向くと口元に特徴的な笑みを浮かべ、


「勘違いしないでください。"僕が"彼を放さないのではなく、"彼が"僕を放さないんですよ」
 見下すように鼻を鳴らす。
 笑いが気にくわなかったのだろう。雲雀の構えたトンファーが主の苛立ちに答えるように音を立てる。


「どうでもいいよそんなの。いいからとっとと渡して。それは僕の獲物なんだから」
「横取りは感心しませんね。沢田綱吉は僕の獲物ですよ?」
 逼迫した現状に似合わないのんびりした口調で骸は雲雀を詰る。雲雀は正反対の顔で骸を睨んだ。
「だから、そんなのどうでもいい。咬み殺されたくなかったらとっととそこの草食動物を渡して、消えて」
「やれやれ。君、本当に人の話を聞きませんねぇ……」
 外国の俳優のように肩をすくめた骸はどこから取り出したのかおもむろに三叉の槍を構える。
 それから邪魔だと言わんばかりに腰にしがみついたままのツナを引きはがす。
 軽く突き飛ばされ、雲雀の剣幕といつの間にか吹き出していた骸の黒いオーラに腰を抜かせていたツナは思わず尻餅をついた。
 槍を携えた骸が、背中越しに視線を寄越した。


「いいですか、沢田綱吉。これだけは言っておきます。僕は別に君のために戦うのではありません。僕はただ――――っ」


 ゆらり。
 と、言葉の途中で骸の体がぶれる。


 今まで骸が立っていた地面に、雲雀が思い切りトンファーを突き立てていた。


「――――のんきにしゃべってる暇あるの?」


 トンファーを引っこ抜き、雲雀は骸を睨む。
 視線を受け止めてクフン。と、特徴的に骸が含み笑う。
 表情こそ笑っているが、目が笑っていない。吹き出すオーラが禍々しさを増す。翳した右手の中で赤く輝く瞳が、めまぐるしく浮かぶ文字を変えてゆく。


「行儀が悪いですねぇ。――――君、本気で不快です」
「ワオ。君と意見の合う日が来るなんて思ってなかったよ。……逃げるんじゃないよ、草食動物。逃げたら、家まで咬み殺しに行くから」
 抜けた腰でずりずり後ずさっていたツナは、鶴の一声ならぬ雲雀の一声に引きつった悲鳴を上げて動きを止める。




 同時に、平和な並盛町のとある通り道は戦場と化した。




「ヒ、ヒイィ――――ッ!」
 ツナは頭を抱えて悲鳴を上げた。


 片や並盛の誇る理不尽魔王。片やマフィア殲滅を狙う極悪電波。


 二大凶悪巨頭の激突に、道路や電柱、果ては余所様のお宅の塀までもが破壊されてゆく。地面に倒れたままの獄寺が何度も頭を踏まれて痙攣している。
 こんな時こそ民間人の味方、警察の出番だと思うのだが、この町の警察は露出狂の中学生を捕まえるためには機敏に動くくせにこういった非常事態にはさっぱり腰を上げようとしない。
 どこでも見かける通学路。似つかわしくない破砕音が朱に染まりつつある放課後の空に響き渡る。
 ツナはたびたび飛んでくるコンクリートの欠片から頭を庇いながら、祈った。




 どうぞこの事態を収拾できる人物が通りがかってくれますように、と。ひたすら他力本願に祈った。

あとがき

雲雀が出たら、まぁ当然のごとく骸も出てくるわけですよ
(セットメニュー感覚で)
話が一気に剣呑になって参りました。
次回でたぶん、収集つきます。

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