*猫の飼い方2*
多頭飼いのすゝめ
後
――――夕食も終わって、風呂も終わって。 さぁ寝ようかと寝室へ向かったスタンを迎えたのは、ベッドの上で睨み合う猫とリオンの姿だった。 両者の間に見えない火花が散るのを見て、言葉を失うスタン。 手にしたタオルが床に落ちる。 気配に反応したのか、リオンが振り向く。猫が振り向く。 全く同じタイミングで、一人と一匹はスタンを向いた。 その顔もまた、なんだか同じように不機嫌面に見えた。 「……何してんだ、お前ら」 やっと出た言葉は、心なしかやたら疲れた響きをしていた。 「コイツがいつまでもベッドから降りないんだ」 リオンが猫をつまみ上げようとすると、抗議するように鳴きながら、猫はシーツに爪を立てる。 よく見ると、シーツの所々には激闘の痕がありありと残っていた。 四肢を踏ん張り強情にシーツから爪を放さない猫に、リオンは忌々しげに舌を打つ。 「猫のくせに図々しい。オマエにはちゃんと自分のベッドがあるだろう」 顔をのぞき込み、重々しい声で説教するリオン。シーツに引っかかった爪を一つ一つ剥がしてゆこうとするが、一本腕が空くと、猫はリオンを引っ掻こうとその腕を振り回す。 辛うじて鋭い爪から逃れたリオンは、再び目をつり上げた。 「コイツ……っ!!」 リオンはさらに挑みかかる。 てこでもベッドから動こうとしない猫。その猫を引きはがそうと躍起になるリオン。 見方を変えればコントじみていると言えなくもない光景に、スタンは微笑とも苦笑ともとれない笑みを口元に浮かべた。 「……何を笑っている」 そんなスタンの様子に気がついたらしいリオンが振り向く。 満面に朱を濺いだリオンは、スタンを親の敵のように睨み据えている。 対して取り押さえられた猫は、スタンに向かって甘えるような声で助けを呼んだ。 リオンの慍色が濃くなる。 このままいけば爆発するのは直か。 スタンは心の中でため息をこぼしながら、ベッドに近づいた。 「ちょおっとごめんなー」 言いながら、シーツに引っかかった爪を一つ一つ外して、リオンの手から猫を取り上げる。 顔をしかめるリオンの前で、腕の中の猫は媚びるようにスタンの胸元へ体を擦りつけた。 「ちょっとまってろ」 「おい、スタン」 止める声を後ろに寝室を出たスタンは、扉が閉まる瞬間見えたリオンのふくれっ面に肩を落として呆れのため息をついた。 数分後。猫を専用のケージに戻して寝室に戻ってくると、部屋の中にリオンの姿はなかった。 代わりに、ベッドの中央にシーツでできた山が築かれている。 「……リオン」 声をかけて近づけば、シーツの山はぴくりと震えた。 「子供じゃないんだから、拗ねるなよ」 「拗ねていない」 シーツの山から、やはりむくれたような応答が返ってくる。 スタンは意外に子供っぽい同居人の一面に、微苦笑をもらした。 「ふくれんな」 「ふくれてない」 「むくれんな」 「むくれてない」 「ムキになんな」 「……ムキになっては悪いか」 初めて返答に変化があった。 スタンはリオンの顔をのぞき込もうとする。 が、シーツの幕に阻まれそれはかなわない。リオンは、ぽつぽつと籠もった声で答え始めた。 「オマエのペットは僕だけだ。なのにどうして、あんな奴にかまう。あんな奴に――――……ムキになって当然だ」 (猫相手に嫉妬かよ……) リオンの独白に思わず眉がハの字になる。ついでに、口元には微笑が浮かんでいた。 ある意味猫を人間と対等に扱っているリオンの姿が、なんだか可笑しかったからだ。 夕方、立ち寄った本屋で読んだペット書の内容が頭をよぎる。 (拗ねたペットのご機嫌取りも飼い主の役割、か……) スタンはやれやれと肩をすくめると、シーツの砦に手をかけた。 「リーオーンッ!」 勢いよくシーツを剥ぐと、中からころころと"自称"ペットが転がり出る。 放り出されたせいか髪を乱したリオンは、ジト目でこちらを睨み付けていた。 「可愛くないなぁ、オマエは」 「可愛くなくて結構。男に可愛さを求めるな、気色の悪い」 つんとそっぽをむくリオン。 その姿にスタンは再び肩をすくめ、 「ほんと、可愛くねぇ」 言って、リオンの体を強引に抱き寄せた。 転がるようにベッドにもつれ込む二人。背後から抱き寄せられたリオンは、珍しく戸惑っているようだった。 「スタン……ッ!?」 「どんだけ可愛くなくても、俺のペットはオマエだけだって」 どれだけ生意気でも。どれだけ愛想が無くても。どれだけ嫉妬深くても。 今のスタンにとって"ペット"なんてリオン一人で十分。 添い寝の相手も、甘えて甘えられる相手もリオンだけでいい。 「だからあんま拗ねんな。困るんだよ、拗ねられると。"癒し"もペットの役割だって言ってたのはオマエだろ?」 子守歌のようにゆっくり、優しく言葉を紡ぎながら頭を撫でてやると、腕の中でリオンが力を抜いた。 くすくすと笑う声がスタンの耳朶をくすぐる。 「まったく……」 唇を笑みで振るわせながら、くるりとリオンは体勢を入れ替えた。 仰ぎ見るリオンの顔は、なんだか嬉しそうで――――そして晴れやかだった。 「いつの間にか僕の扱いがウマくなったな」 「当たり前だろ。俺、お前の"飼い主"なんだから」 おどけるように言ってやれば、「そうだったな」とリオンも笑みを浮かべた唇をスタンの首元に埋めた。 別の部屋から、置いてきぼりにされた猫が不満そうに鳴いている。 声を模すように「にゃあ」と鳴いてみせるリオンの唇を、スタンは笑いながら塞いだ。
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あとがき
後編。ちょっとはリオスタに見えるかな?
書いといてなんだが、こういうべたべたするリオスタってあんま書かないなぁ……。
裏に行きそうな雰囲気ですが行きません。
つか、書けません(汗)